聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい
地下牢
マリオ、何をしているのよ?さっさと唇を奪いなさい。
などというはしたないことを思うのは、カリーナであってアヤではない。
したがって、彼の胸の中でじっとしている。
そのとき、地下牢のどこかで「ピチャッ!」と水の落ちる音か跳ねる音が、やけに大きく響き渡った。
その音に驚き、二人とも文字通り飛び上がってしまった。
「す、すまない。許してくれ。おれは、聖女のきみになにをしているんだ」
飛び上がった瞬間、彼はわたしを解放し、自分は数歩うしろへ下がって距離を置いた。
どう反応していいのかわからない。
怒ればいいの?それとも、残念そうにするの?
わからなさすぎる。
聖女っていうよりかは、一般的な淑女はどうするのかしら?
ダメだわ。何か反応しないと、彼が気にしてしまうかもしれない。
「はやく用を済ませてしまいましょう」
自分にたいして驚いてばかりである。
意に反して、ぶっきらぼうに言っていた。
もっとやさしく、あるいはやわらかく言うべきじゃなかったの?っていうよりかは、さきほどの彼の行為にたいして触れた方がよかったのではないかしら?
「あ、ああ。行こう」
マリオは、それだけ言うと前に向き直ってまた歩きはじめた。
彼のその立派な背中を見ながら、つくづく自分が情けなくなった。
地下牢は、想像していたよりも立派なので驚いてしまった。
小説に出てくる収監所そのままである。
向かい合う形で、それぞれの列に十房ずつ合計で二十房並んでいる。
血臭や死臭、汗のにおいや糞尿のにおいは、いまや鼻について気分が悪いほどひどくなっている。
「戦争時に捕虜を収監していたのか懲罰房だったのか、あるいは一般の犯罪者が収監されていたのかもしれないな」
マリオが中をのぞきこみながら言った。
彼は、さきほどのことなどまるで何もなかったかのようにフツーに振る舞っている。
まぁ、わたしとしてもその方が助かるんだけど。
どうしても意識してしまうから。
「いたぞ」
暗殺者は、向かって右側の三つ目の房に入れられていた。
持ち出してきた鍵には番号が振ってあるが、地下牢の一つ一つの房にはとくに番号は割り振られていない。
手前から一番、二番と割り振るか、あるいは奥から一番、二番と割り振るのがフツーである。
マリオが五番目の鍵を檻の鍵穴に差し込んでまわすと、「ガシャン」と甲高い金属音がしてあっけなく開いた。
暗殺者は、石製の寝台の上にうつ伏せの状態で無造作に転がされている。
マリオは扉を開けると、すべりこむようにして牢の中に入ってしまった。わたしも同じようにさっと入ろうとし、ふと思いなおした。
もうちょっとモタモタしないと。いくらなんでも動きがすばやすぎる。いつも人の目を忍んで動いているみたいにしか見えない。
本来なら淑女なんですもの。人目を忍んですばやく動き回る、なんて必要ないわよね?
自分自身に対して苦笑している中、マリオは石製の寝台の横に片膝をついて暗殺者の首の辺りに指を這わせている。
壁も床も石で出来ている為、でこぼこしている。
牢内に入ってくると、ほとんど灯りが届かない。暗殺者になる前に、暗闇でも物を見る訓練を積んでいたが、アヤになってからもそれはやっておいた。だから、床や壁に血や汚れがついているのがわかる。
ここに閉じ込められただれかの血や糞尿などに違いない。
「アヤ」
わたしを呼んだマリオの声には、先程のいい雰囲気だったときとは別種の緊張が含まれていた。
その緊張が伝わった瞬間、心身ともに引き締まった。
「どうしたの?」
本能的に小声で尋ねていた。尋ねながら、彼に近づいてその横に片膝をついた。
膝をついたところの床の石が割れてとがっているらしく、膝頭に鋭い痛みが走った。
「死んでいる」
「死んでいる?」
彼の言葉を、バカみたいにオウム返ししてしまった。そう言ってから、わたしも彼と同じことをしていた。
つまり、暗殺者の首の辺りを指で触れていたのである。
「脛骨が折れているってわけじゃないわね」
「ああ、そういうわけではない」
彼は、そう言うと立ち上がった。それから、暗殺者を仰向けにして瞼を閉じさせた。
わたしはそのまま両膝を石床につけたまま、外傷などを確認した。
ヴァスコが斬ったときの傷以外はとくに変化はなく、その傷以外の傷や痣はついていない。
頭の中で、複数の疑問が浮かんでくる。
「なぜ?」
マリオもわたしと同じく複数の疑問が浮かんでいるらしい。つぶやくように言った。
目を閉じ、ほんのわずかの間だけ死者の冥福を祈った。
「わからない。まったくわからないわ」
頭がよく働かない。
っていうよりかは、急激に疲れてきた。だるいというかなんというか……。
などというはしたないことを思うのは、カリーナであってアヤではない。
したがって、彼の胸の中でじっとしている。
そのとき、地下牢のどこかで「ピチャッ!」と水の落ちる音か跳ねる音が、やけに大きく響き渡った。
その音に驚き、二人とも文字通り飛び上がってしまった。
「す、すまない。許してくれ。おれは、聖女のきみになにをしているんだ」
飛び上がった瞬間、彼はわたしを解放し、自分は数歩うしろへ下がって距離を置いた。
どう反応していいのかわからない。
怒ればいいの?それとも、残念そうにするの?
わからなさすぎる。
聖女っていうよりかは、一般的な淑女はどうするのかしら?
ダメだわ。何か反応しないと、彼が気にしてしまうかもしれない。
「はやく用を済ませてしまいましょう」
自分にたいして驚いてばかりである。
意に反して、ぶっきらぼうに言っていた。
もっとやさしく、あるいはやわらかく言うべきじゃなかったの?っていうよりかは、さきほどの彼の行為にたいして触れた方がよかったのではないかしら?
「あ、ああ。行こう」
マリオは、それだけ言うと前に向き直ってまた歩きはじめた。
彼のその立派な背中を見ながら、つくづく自分が情けなくなった。
地下牢は、想像していたよりも立派なので驚いてしまった。
小説に出てくる収監所そのままである。
向かい合う形で、それぞれの列に十房ずつ合計で二十房並んでいる。
血臭や死臭、汗のにおいや糞尿のにおいは、いまや鼻について気分が悪いほどひどくなっている。
「戦争時に捕虜を収監していたのか懲罰房だったのか、あるいは一般の犯罪者が収監されていたのかもしれないな」
マリオが中をのぞきこみながら言った。
彼は、さきほどのことなどまるで何もなかったかのようにフツーに振る舞っている。
まぁ、わたしとしてもその方が助かるんだけど。
どうしても意識してしまうから。
「いたぞ」
暗殺者は、向かって右側の三つ目の房に入れられていた。
持ち出してきた鍵には番号が振ってあるが、地下牢の一つ一つの房にはとくに番号は割り振られていない。
手前から一番、二番と割り振るか、あるいは奥から一番、二番と割り振るのがフツーである。
マリオが五番目の鍵を檻の鍵穴に差し込んでまわすと、「ガシャン」と甲高い金属音がしてあっけなく開いた。
暗殺者は、石製の寝台の上にうつ伏せの状態で無造作に転がされている。
マリオは扉を開けると、すべりこむようにして牢の中に入ってしまった。わたしも同じようにさっと入ろうとし、ふと思いなおした。
もうちょっとモタモタしないと。いくらなんでも動きがすばやすぎる。いつも人の目を忍んで動いているみたいにしか見えない。
本来なら淑女なんですもの。人目を忍んですばやく動き回る、なんて必要ないわよね?
自分自身に対して苦笑している中、マリオは石製の寝台の横に片膝をついて暗殺者の首の辺りに指を這わせている。
壁も床も石で出来ている為、でこぼこしている。
牢内に入ってくると、ほとんど灯りが届かない。暗殺者になる前に、暗闇でも物を見る訓練を積んでいたが、アヤになってからもそれはやっておいた。だから、床や壁に血や汚れがついているのがわかる。
ここに閉じ込められただれかの血や糞尿などに違いない。
「アヤ」
わたしを呼んだマリオの声には、先程のいい雰囲気だったときとは別種の緊張が含まれていた。
その緊張が伝わった瞬間、心身ともに引き締まった。
「どうしたの?」
本能的に小声で尋ねていた。尋ねながら、彼に近づいてその横に片膝をついた。
膝をついたところの床の石が割れてとがっているらしく、膝頭に鋭い痛みが走った。
「死んでいる」
「死んでいる?」
彼の言葉を、バカみたいにオウム返ししてしまった。そう言ってから、わたしも彼と同じことをしていた。
つまり、暗殺者の首の辺りを指で触れていたのである。
「脛骨が折れているってわけじゃないわね」
「ああ、そういうわけではない」
彼は、そう言うと立ち上がった。それから、暗殺者を仰向けにして瞼を閉じさせた。
わたしはそのまま両膝を石床につけたまま、外傷などを確認した。
ヴァスコが斬ったときの傷以外はとくに変化はなく、その傷以外の傷や痣はついていない。
頭の中で、複数の疑問が浮かんでくる。
「なぜ?」
マリオもわたしと同じく複数の疑問が浮かんでいるらしい。つぶやくように言った。
目を閉じ、ほんのわずかの間だけ死者の冥福を祈った。
「わからない。まったくわからないわ」
頭がよく働かない。
っていうよりかは、急激に疲れてきた。だるいというかなんというか……。