聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい
ペルティ家の屋敷
「それで、どこに行くつもりだったんだい?」
「そうね。屋敷にはいられなくなってしまったから、とりあえずは街の宿屋にでも行こうかなと」
「どうして?どうして屋敷にいられなくなったんだい?」
もういいから黙っていてよ。
せっかくの美形なんだし、その口さえ閉じていてくれればまだ耐えられるのに。
「ブルーノ。あなた、舞踏会に出席してあの大騒ぎを見聞きしていたんでしょう?だったら、わたしがこの国から追放されたということを知っているわよね?」
「ああ、そうだったかな?そんなこと、言っていたっけ」
「こういう場合は、そうなのよ。だから、あなたのところにお邪魔したら、かえって迷惑をかけてしまうかもしれないわね。よければ、街の宿屋にでも送って下さらない?だったら、あなたやペルティ家に迷惑をかけずにすむでしょうから」
「大丈夫だよ。どうせ親父は子爵か男爵かの未亡人のところに行っているし、今夜は帰って来ないはずだ」
そう。彼の父親も相当な美形で若く見えるけど、反吐が出るほどの女好きなのよね。
女好きは、ペルティ家の血筋よね。
「そういう問題でもないと思うんだけど」
「えっ、なんだって?」
「じゃあ、今夜だけお世話になるわ。こんな時間だし。さっさと皇都(ここ)から出ないと、投獄されかねないわ」
彼の美形から馬車の窓の外へと視線を移した。
彼はまだ何か言っているけど、会話どころか相槌をうったり愛想笑いを浮かべる気にすらならない。
ずっと窓の外を見ていた。
街灯や家々の窓から灯りがもれでている。それらは、濃く薄く夜の街を彩っている。
それを、見るともなしに眺めている。頭の中では、つぎのことをかんがえている。
アヤとわたしのつぎのことを、である。
間もなく、ペルティ家に到着した。だけど、なぜか馬車は門前で停止した。
「アヤ、降りて」
言われるままに降りると、彼は馭者に銅貨を渡している。
「え?雇った馬車だったの?あ、そうよね。馬車は、お父様が使っているんですものね」
「いいや。馭者はクビにしたんだ。馬が死んだからね。さあ、行こう」
彼は、さっさと歩いて行ってしまった。
あのねぇ、紳士君。荷物くらい持ってよね。
彼の背中に、心の中で文句を言ってやった。
トランクを持ち、彼の後に続く。
暗闇に、ペルティ家の屋敷の陰影がぼんやり浮かび上がっている。
ちょっ……。
なんで真っ暗なわけ?彼と彼の父親は他出していても、使用人たちはいるでしょう?
とにかく、真っ暗なのである。
窓の一つとして灯りがもれていない。
「だれもいないの?まさか、使用人全員今日はお休みってこと?」
そんなことありえないけど、そう尋ねるしかない。
少しだけ上り坂になっている。雲が途切れ、月が顔を見せた。
そのタイミングで、彼がこちらを振り向いた。
わたしを見下ろす彼の美形には、ゾッとするほど不気味な笑みが浮かんでいる。
「クビにしたんだ。全員、クビさ」
「クビ?いったい、どうして……」
わたしの困惑をよそに、彼はクルリと前を向き、また歩きはじめた。
なるほど。彼の奇行は、想像を絶するほどだったのね。
アヤは、それに気がつかなかった。きっと、こうして幼馴染の彼に誘われて何の疑いもなくペルティ家に泊めてもらおうとしたのね。
ペルティ家での彼女が死んだのは、彼女の三度目の人生のときである。
彼女は、舞踏会の最中に偽聖女認定と婚約破棄をされた。それらは、おとなしくってやさしい彼女の心を、穏やかではなくしてしまった。
彼女は、とりあえずどこかに落ち着いてかんがえたかった。だから、休息する場所が必要だった。
だから、彼女は幼馴染によってたくみにこの屋敷に誘導された。
屋敷の玄関扉は開いていた。物騒ねと言いたいところだけど、それ以前に盗賊すら近づきがたい雰囲気が漂っている。
おどろおどろしい空気が屋敷全体を覆っている。まるで魔女に呪いをかけられているかのようだわ。
屋敷に足を踏み入れると、何かが腐ったようなにおいが鼻を襲った。
さすがのわたしも、この強烈な臭気に吐きそうになった。幸運にも舞踏会でいっさい飲んだり食べたりしなかったので吐く物がない。
酸っぱい唾液が口中にひろがる。
この時点で、ヤバいと思った。
このにおいの正体に気がついたからである。
アヤったらもう。筋書きがじゃっかん違うわよ。いいえ。じゃっかんどころじゃない。大分と違ってしまっている。しかも、悪い方向にだわ。
わずかでも休めるかと思ってやって来たけど、それどころかすぐにでも逃げなきゃマズいわ。
アヤ、ごめんね。あなたとわたし自身を守る為に、あなたの幼馴染を予定よりひどい目にあわさなくてはならなくなったかもしれない。
片手で鼻をおさえつつ、エントランスを見回してみた。
「そうね。屋敷にはいられなくなってしまったから、とりあえずは街の宿屋にでも行こうかなと」
「どうして?どうして屋敷にいられなくなったんだい?」
もういいから黙っていてよ。
せっかくの美形なんだし、その口さえ閉じていてくれればまだ耐えられるのに。
「ブルーノ。あなた、舞踏会に出席してあの大騒ぎを見聞きしていたんでしょう?だったら、わたしがこの国から追放されたということを知っているわよね?」
「ああ、そうだったかな?そんなこと、言っていたっけ」
「こういう場合は、そうなのよ。だから、あなたのところにお邪魔したら、かえって迷惑をかけてしまうかもしれないわね。よければ、街の宿屋にでも送って下さらない?だったら、あなたやペルティ家に迷惑をかけずにすむでしょうから」
「大丈夫だよ。どうせ親父は子爵か男爵かの未亡人のところに行っているし、今夜は帰って来ないはずだ」
そう。彼の父親も相当な美形で若く見えるけど、反吐が出るほどの女好きなのよね。
女好きは、ペルティ家の血筋よね。
「そういう問題でもないと思うんだけど」
「えっ、なんだって?」
「じゃあ、今夜だけお世話になるわ。こんな時間だし。さっさと皇都(ここ)から出ないと、投獄されかねないわ」
彼の美形から馬車の窓の外へと視線を移した。
彼はまだ何か言っているけど、会話どころか相槌をうったり愛想笑いを浮かべる気にすらならない。
ずっと窓の外を見ていた。
街灯や家々の窓から灯りがもれでている。それらは、濃く薄く夜の街を彩っている。
それを、見るともなしに眺めている。頭の中では、つぎのことをかんがえている。
アヤとわたしのつぎのことを、である。
間もなく、ペルティ家に到着した。だけど、なぜか馬車は門前で停止した。
「アヤ、降りて」
言われるままに降りると、彼は馭者に銅貨を渡している。
「え?雇った馬車だったの?あ、そうよね。馬車は、お父様が使っているんですものね」
「いいや。馭者はクビにしたんだ。馬が死んだからね。さあ、行こう」
彼は、さっさと歩いて行ってしまった。
あのねぇ、紳士君。荷物くらい持ってよね。
彼の背中に、心の中で文句を言ってやった。
トランクを持ち、彼の後に続く。
暗闇に、ペルティ家の屋敷の陰影がぼんやり浮かび上がっている。
ちょっ……。
なんで真っ暗なわけ?彼と彼の父親は他出していても、使用人たちはいるでしょう?
とにかく、真っ暗なのである。
窓の一つとして灯りがもれていない。
「だれもいないの?まさか、使用人全員今日はお休みってこと?」
そんなことありえないけど、そう尋ねるしかない。
少しだけ上り坂になっている。雲が途切れ、月が顔を見せた。
そのタイミングで、彼がこちらを振り向いた。
わたしを見下ろす彼の美形には、ゾッとするほど不気味な笑みが浮かんでいる。
「クビにしたんだ。全員、クビさ」
「クビ?いったい、どうして……」
わたしの困惑をよそに、彼はクルリと前を向き、また歩きはじめた。
なるほど。彼の奇行は、想像を絶するほどだったのね。
アヤは、それに気がつかなかった。きっと、こうして幼馴染の彼に誘われて何の疑いもなくペルティ家に泊めてもらおうとしたのね。
ペルティ家での彼女が死んだのは、彼女の三度目の人生のときである。
彼女は、舞踏会の最中に偽聖女認定と婚約破棄をされた。それらは、おとなしくってやさしい彼女の心を、穏やかではなくしてしまった。
彼女は、とりあえずどこかに落ち着いてかんがえたかった。だから、休息する場所が必要だった。
だから、彼女は幼馴染によってたくみにこの屋敷に誘導された。
屋敷の玄関扉は開いていた。物騒ねと言いたいところだけど、それ以前に盗賊すら近づきがたい雰囲気が漂っている。
おどろおどろしい空気が屋敷全体を覆っている。まるで魔女に呪いをかけられているかのようだわ。
屋敷に足を踏み入れると、何かが腐ったようなにおいが鼻を襲った。
さすがのわたしも、この強烈な臭気に吐きそうになった。幸運にも舞踏会でいっさい飲んだり食べたりしなかったので吐く物がない。
酸っぱい唾液が口中にひろがる。
この時点で、ヤバいと思った。
このにおいの正体に気がついたからである。
アヤったらもう。筋書きがじゃっかん違うわよ。いいえ。じゃっかんどころじゃない。大分と違ってしまっている。しかも、悪い方向にだわ。
わずかでも休めるかと思ってやって来たけど、それどころかすぐにでも逃げなきゃマズいわ。
アヤ、ごめんね。あなたとわたし自身を守る為に、あなたの幼馴染を予定よりひどい目にあわさなくてはならなくなったかもしれない。
片手で鼻をおさえつつ、エントランスを見回してみた。