聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい
癒しの力
「アヤ、殿下が」
そのヴァスコの一言で、現実に引き戻されてしまった。
「殿下が、息をしていない」
ヴァスコの狼狽した叫びが耳に痛いくらいだわ。
彼は、両手で檻をつかんで激しく揺さぶっている。
檻が外れてしまうのではないの、という勢いである。
「鍵を開けるから待って。二酸化炭素が放出されているの。姿勢を高くして。それから、すぐに殿下を抱き上げてちょうだい」
正直なところ、わたしも冷静ではない。だけど、わたしまで狼狽していては、ヴァスコはますます取り乱してしまう。
冷静な様子に見えるようがんばった。それから、事務的な口調を保った。
「あ、ああ。わかった」
それが功を奏したのか、ヴァスコは少し落ち着きを取り戻したみたい。
神様、ついでに鍵がどれか教えてちょうだい。
鍵の束から一本選んでそれを鍵穴に差し込んだ。
が、回りそうにない。
ああ、神様。しっかりしてちょうだい。
イライラしつつ二本目を差し込んでみた。
が、またしても回らない。
神様っ、いいかげんにしてよ。
そして三本目。
牢内に視線を走らせると、ヴァスコは指示通り皇太子殿下をお姫様抱っこしている。
焦りとイライラで手許がくるってしまい、三本目目の鍵を鍵穴にうまく差し込むことができなかった。
「神様っ、つぎはないわよ」
低くつぶやきながら、もう一度試みた。
「ガチャンッ!」
三本目の鍵は、鍵穴の中ですんなり回ってくれた。
(神様、ありがとう。やれば出来るんじゃない)
淑女で偽聖女なわたしは、ささやかな願いをかなえてくれた偉大な神にたいして、礼を述べることを忘れない。
牢に入り、二人に駆け寄った。
「眠り薬を盛られた。だが、わたしには量が少なかったようだ。牢内に放り込まれた衝撃で目が覚めた。しかし、殿下は……」
ヴァスコが要領よく説明してくれたお蔭で、ある程度の事情はわかった。
推測はあたっていた。
っていうよりかは、小説に出てくるまんまの展開よね。
「ヴァスコ、あなたが頑丈でほんとうによかった」
心からの思いである。
二人ともだったら、わたし一人でどこかに運ぶなんてこととてもじゃないけど出来なかった。
ヴァスコにお姫様抱っこされている皇太子殿下の首筋に指を這わせ、鼓動を探る。
「神様、また感謝します」
口の中で神様に感謝の念を伝えた。
この夜、どこかの神様は感謝されまくっているわね。
「アヤ、お願い。さっそくあなたの力を使いたいの。わたしに力を貸してちょうだい」
つぎは、心の中でアヤにお願いをした。
治癒の力。いまこそ、それが必要なときである。
それは、ついさっきアヤが授けてくれたものである。練習をしていないどころか、ほんとうにその力が宿っているのかすらわからない。ついでに、宿っているという実感がまったくない。
それでも、やらなきゃ。このままでは、皇太子殿下は死んでしまう。
指先にあたるかすかな脈。この奇蹟ともいうべき生を、ぜったいにつなぎとめなければならない。
それで、どうやればいいのかしら?
癒しの力を行使しているところなど、見たことがない。だから、実際自分がどうすればいいのかがわからない。
小説では、両手をかざしたら光がポッという感じで出て、その光にあたるところの傷がみるみるふさがったり、真っ蒼な顔色が血色がよくなったりしていたっけ。
仕方がない。ほかに思いつかないから、とりあえず手をかざしてみよう。それで何も起こらなければ、そのときはそのときでまたほかのシーンを思い出せばいい。
ダメもとである。皇太子殿下の顔面に両手をかざそうとした。
マリオ……。
その真っ白だけど穏やかな表情は、マリオそのものである。そっくりだとわかっていても、ここまでそっくりだとドキリとしてしまう。
ドキリとしてしまう?
なぜ?なぜドキリとしてしまうの?
バカ。いまはそんなことはどうでもいいの。はやくしなくては。精神を集中するのよ。
気を取り直し、あらためて彼の顔面に両手をかざしてみた。
が、何も起こらない。それこそ、手から光とかあたたかい何かが出たり、なんてことはまったくない。瞬時にして皇太子殿下の顔色がよくなったり、瞼が開いたり、そういうこともまったくない。とにかく、何も起こらないしわずかの変化もない。
じゃあ、つぎはどうする?
手のひらをかざす以外になにがあるかしら?なんてかんがえてしまう。
おっと、そうだわ。
触れる、があるじゃない。
なでなでしまくるのよ。
ってそんなの、ただの色情狂なだけじゃない。
そのヴァスコの一言で、現実に引き戻されてしまった。
「殿下が、息をしていない」
ヴァスコの狼狽した叫びが耳に痛いくらいだわ。
彼は、両手で檻をつかんで激しく揺さぶっている。
檻が外れてしまうのではないの、という勢いである。
「鍵を開けるから待って。二酸化炭素が放出されているの。姿勢を高くして。それから、すぐに殿下を抱き上げてちょうだい」
正直なところ、わたしも冷静ではない。だけど、わたしまで狼狽していては、ヴァスコはますます取り乱してしまう。
冷静な様子に見えるようがんばった。それから、事務的な口調を保った。
「あ、ああ。わかった」
それが功を奏したのか、ヴァスコは少し落ち着きを取り戻したみたい。
神様、ついでに鍵がどれか教えてちょうだい。
鍵の束から一本選んでそれを鍵穴に差し込んだ。
が、回りそうにない。
ああ、神様。しっかりしてちょうだい。
イライラしつつ二本目を差し込んでみた。
が、またしても回らない。
神様っ、いいかげんにしてよ。
そして三本目。
牢内に視線を走らせると、ヴァスコは指示通り皇太子殿下をお姫様抱っこしている。
焦りとイライラで手許がくるってしまい、三本目目の鍵を鍵穴にうまく差し込むことができなかった。
「神様っ、つぎはないわよ」
低くつぶやきながら、もう一度試みた。
「ガチャンッ!」
三本目の鍵は、鍵穴の中ですんなり回ってくれた。
(神様、ありがとう。やれば出来るんじゃない)
淑女で偽聖女なわたしは、ささやかな願いをかなえてくれた偉大な神にたいして、礼を述べることを忘れない。
牢に入り、二人に駆け寄った。
「眠り薬を盛られた。だが、わたしには量が少なかったようだ。牢内に放り込まれた衝撃で目が覚めた。しかし、殿下は……」
ヴァスコが要領よく説明してくれたお蔭で、ある程度の事情はわかった。
推測はあたっていた。
っていうよりかは、小説に出てくるまんまの展開よね。
「ヴァスコ、あなたが頑丈でほんとうによかった」
心からの思いである。
二人ともだったら、わたし一人でどこかに運ぶなんてこととてもじゃないけど出来なかった。
ヴァスコにお姫様抱っこされている皇太子殿下の首筋に指を這わせ、鼓動を探る。
「神様、また感謝します」
口の中で神様に感謝の念を伝えた。
この夜、どこかの神様は感謝されまくっているわね。
「アヤ、お願い。さっそくあなたの力を使いたいの。わたしに力を貸してちょうだい」
つぎは、心の中でアヤにお願いをした。
治癒の力。いまこそ、それが必要なときである。
それは、ついさっきアヤが授けてくれたものである。練習をしていないどころか、ほんとうにその力が宿っているのかすらわからない。ついでに、宿っているという実感がまったくない。
それでも、やらなきゃ。このままでは、皇太子殿下は死んでしまう。
指先にあたるかすかな脈。この奇蹟ともいうべき生を、ぜったいにつなぎとめなければならない。
それで、どうやればいいのかしら?
癒しの力を行使しているところなど、見たことがない。だから、実際自分がどうすればいいのかがわからない。
小説では、両手をかざしたら光がポッという感じで出て、その光にあたるところの傷がみるみるふさがったり、真っ蒼な顔色が血色がよくなったりしていたっけ。
仕方がない。ほかに思いつかないから、とりあえず手をかざしてみよう。それで何も起こらなければ、そのときはそのときでまたほかのシーンを思い出せばいい。
ダメもとである。皇太子殿下の顔面に両手をかざそうとした。
マリオ……。
その真っ白だけど穏やかな表情は、マリオそのものである。そっくりだとわかっていても、ここまでそっくりだとドキリとしてしまう。
ドキリとしてしまう?
なぜ?なぜドキリとしてしまうの?
バカ。いまはそんなことはどうでもいいの。はやくしなくては。精神を集中するのよ。
気を取り直し、あらためて彼の顔面に両手をかざしてみた。
が、何も起こらない。それこそ、手から光とかあたたかい何かが出たり、なんてことはまったくない。瞬時にして皇太子殿下の顔色がよくなったり、瞼が開いたり、そういうこともまったくない。とにかく、何も起こらないしわずかの変化もない。
じゃあ、つぎはどうする?
手のひらをかざす以外になにがあるかしら?なんてかんがえてしまう。
おっと、そうだわ。
触れる、があるじゃない。
なでなでしまくるのよ。
ってそんなの、ただの色情狂なだけじゃない。