聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい
二度目の癒しの力
「アヤッ、しっかりしろ。マリオに癒しの力を。はやくするんだ」
そのとき、肩に手を置かれて揺さぶられた。
ヴァスコである。彼は皇太子殿下を安全な場所に連れて行き、戻って来てくれたのだ。
その彼の一喝で、わずかに動揺がおさまった。
彼がマリオをお姫様抱っこをしてくれた。
「アヤ、お願い。マリオのことも助けて。お願いだから、彼を死なせないで」
涙は止まりそうにない。
アヤへの懇願が、勝手に口から出てくる。
マリオのワイルドな美形は、死人よりもひどい色をしている。
その彼の顔の前に両手をかざしてみたけど、右手も左手も激しく震えている。
「アヤッ、しっかりしろ。大丈夫。きみなら出来る。きみしか彼を救えないのだ」
ヴァスコのテノールの声が、耳に飛び込んできた。
それが、さらにわたしの心をわずかに落ち着かせてくれた。
そう。わたししかマリオを救えない。わたししか彼の命を現世につなぎとめることが出来ない。
信じるのよ、アヤとわたし自身を。
癒しの力を発動した。
皇太子殿下は、客間の寝台で起き上がれるようになった。
ヴァスコは、かいがいしく皇太子殿下のお世話をしている。
侯爵は、地下牢の一つに放り込んでいる。
ヴァスコと二人で、地下牢の奥に一室があるのを発見した。一室というよりか、洞穴になっている。そこから二酸化炭素が噴出されているのである。
この古城は、もともと岩山を崩して造ったものである。そこにある洞穴の一つが、地下牢に直結しているというわけである。
地下牢と洞穴を隔てるのは、驚くほど分厚い鉄扉である。二酸化炭素をすべて遮断するのは難しい。だけど、身体に影響を与えない程度にまで二酸化炭素の流出をおさえることは出来る。
ヴァスコがその鉄扉を閉じてくれた。
そして、侯爵を牢に残した。
侯爵はタフすぎる。彼のタフさと運の良さは、神レベルである。それとも、悪魔レベルといったほうがいいかしら。
結局、彼は死ななかった。軍用ナイフで彼の喉頭部を貫いたはずだったにもかかわらず。
マリオのことで、動揺したわたしの手許が狂ったのかもしれない。だけど、あれだけ血を噴出させて死ななかった侯爵は、正直すごすぎる。
まあ、彼にはききたいことがある。彼が死んでしまっては、いろいろな謎が解けないままで終わってしまう。
だから、死ななくってよかったのかもしれない。
侯爵のことはともかく、わたしは暗殺者として失格である。自分でそう認めざるを得ない。
そして、聖女としても失格である。それもまた認めざるを得ない。
それでも、皇太子殿下とマリオの命を救うことが出来た。
せめてもの慰めである。
そのマリオは、彼自身の部屋の寝台で横たわっている。
命はとりとめたものの、なぜか目を覚まさないのである。
ヴァスコと調べたり皇太子殿下やもう一人の騎士や馭者の様子を見ている間以外は、ずっと彼についている。
寝台の横に椅子をひっぱってきて、彼の様子を見ている。
わたし自身、正直なところ限界に近い。いえ、限界を超えてしまっている。
癒しの力を二度使ったからに違いない。それに、全力で戦いもした。
彼の穏やかな寝顔を見つめていると、つい瞼が重くなってくる。
立ち上がり、窓に近づいてカーテンを開けた。
窓ガラスと鉄格子の向こうで、夜がしらじらと明けつつある。
長い一夜だった気もするし、あっという間の一夜だった気もする。
カーテンは開けたままにし、また寝台に戻った。
彼は、あいかわらず浅い寝息を立てている。
彼の顔をまた見ながら、皇太子殿下とそっくりだともう何度思ったことだろうとかんがえた。
そして、侯爵が彼にたいして意味のないことを言っていたのを思い出した。
「忌み子」
この一語を、侯爵は何度か言っていた。
いったいどういう意味なのだろう。
侯爵は、マリオのことを知っているとしか思いようがない。
謎だらけである。
侯爵が死ななくってよかった。是非ともこの謎を解き明かしたい。
いいえ。いまは、とにかくマリオが無事に戻って来ることが先決よ。
椅子を寝台にさらに近づけて腰かけた。そうすれば、彼とさらに近くなる。より近くなる分、彼の様子をもっとよくうかがうことが出来る。
「マリオ……」
後悔している。
彼をこの城に連れて来たこと、滞在させたこと、遠乗りに誘ったこと、湖に行ったこと、暗殺者たちを追い散らしたこと、隣国の皇太子殿下とその従者たちを救ったこと、彼らをこの城に連れ帰ったこと。それから、地下牢の鍵を失敬したこと、地下牢へいっしょに行ってもらったこと、その地下牢で侯爵と戦ったこと……。
なにより、侯爵から鍵を奪って放り投げられ、彼を置いて皇太子殿下とヴァスコの様子を見に行ったこと……。
あのとき、彼はすでに限界を超えていたのである。それなのに、彼は一人残って侯爵と戦ってくれた。
彼は自分が侯爵をノックアウト出来なかったことを、手応えでわかっていたに違いない。
そのとき、肩に手を置かれて揺さぶられた。
ヴァスコである。彼は皇太子殿下を安全な場所に連れて行き、戻って来てくれたのだ。
その彼の一喝で、わずかに動揺がおさまった。
彼がマリオをお姫様抱っこをしてくれた。
「アヤ、お願い。マリオのことも助けて。お願いだから、彼を死なせないで」
涙は止まりそうにない。
アヤへの懇願が、勝手に口から出てくる。
マリオのワイルドな美形は、死人よりもひどい色をしている。
その彼の顔の前に両手をかざしてみたけど、右手も左手も激しく震えている。
「アヤッ、しっかりしろ。大丈夫。きみなら出来る。きみしか彼を救えないのだ」
ヴァスコのテノールの声が、耳に飛び込んできた。
それが、さらにわたしの心をわずかに落ち着かせてくれた。
そう。わたししかマリオを救えない。わたししか彼の命を現世につなぎとめることが出来ない。
信じるのよ、アヤとわたし自身を。
癒しの力を発動した。
皇太子殿下は、客間の寝台で起き上がれるようになった。
ヴァスコは、かいがいしく皇太子殿下のお世話をしている。
侯爵は、地下牢の一つに放り込んでいる。
ヴァスコと二人で、地下牢の奥に一室があるのを発見した。一室というよりか、洞穴になっている。そこから二酸化炭素が噴出されているのである。
この古城は、もともと岩山を崩して造ったものである。そこにある洞穴の一つが、地下牢に直結しているというわけである。
地下牢と洞穴を隔てるのは、驚くほど分厚い鉄扉である。二酸化炭素をすべて遮断するのは難しい。だけど、身体に影響を与えない程度にまで二酸化炭素の流出をおさえることは出来る。
ヴァスコがその鉄扉を閉じてくれた。
そして、侯爵を牢に残した。
侯爵はタフすぎる。彼のタフさと運の良さは、神レベルである。それとも、悪魔レベルといったほうがいいかしら。
結局、彼は死ななかった。軍用ナイフで彼の喉頭部を貫いたはずだったにもかかわらず。
マリオのことで、動揺したわたしの手許が狂ったのかもしれない。だけど、あれだけ血を噴出させて死ななかった侯爵は、正直すごすぎる。
まあ、彼にはききたいことがある。彼が死んでしまっては、いろいろな謎が解けないままで終わってしまう。
だから、死ななくってよかったのかもしれない。
侯爵のことはともかく、わたしは暗殺者として失格である。自分でそう認めざるを得ない。
そして、聖女としても失格である。それもまた認めざるを得ない。
それでも、皇太子殿下とマリオの命を救うことが出来た。
せめてもの慰めである。
そのマリオは、彼自身の部屋の寝台で横たわっている。
命はとりとめたものの、なぜか目を覚まさないのである。
ヴァスコと調べたり皇太子殿下やもう一人の騎士や馭者の様子を見ている間以外は、ずっと彼についている。
寝台の横に椅子をひっぱってきて、彼の様子を見ている。
わたし自身、正直なところ限界に近い。いえ、限界を超えてしまっている。
癒しの力を二度使ったからに違いない。それに、全力で戦いもした。
彼の穏やかな寝顔を見つめていると、つい瞼が重くなってくる。
立ち上がり、窓に近づいてカーテンを開けた。
窓ガラスと鉄格子の向こうで、夜がしらじらと明けつつある。
長い一夜だった気もするし、あっという間の一夜だった気もする。
カーテンは開けたままにし、また寝台に戻った。
彼は、あいかわらず浅い寝息を立てている。
彼の顔をまた見ながら、皇太子殿下とそっくりだともう何度思ったことだろうとかんがえた。
そして、侯爵が彼にたいして意味のないことを言っていたのを思い出した。
「忌み子」
この一語を、侯爵は何度か言っていた。
いったいどういう意味なのだろう。
侯爵は、マリオのことを知っているとしか思いようがない。
謎だらけである。
侯爵が死ななくってよかった。是非ともこの謎を解き明かしたい。
いいえ。いまは、とにかくマリオが無事に戻って来ることが先決よ。
椅子を寝台にさらに近づけて腰かけた。そうすれば、彼とさらに近くなる。より近くなる分、彼の様子をもっとよくうかがうことが出来る。
「マリオ……」
後悔している。
彼をこの城に連れて来たこと、滞在させたこと、遠乗りに誘ったこと、湖に行ったこと、暗殺者たちを追い散らしたこと、隣国の皇太子殿下とその従者たちを救ったこと、彼らをこの城に連れ帰ったこと。それから、地下牢の鍵を失敬したこと、地下牢へいっしょに行ってもらったこと、その地下牢で侯爵と戦ったこと……。
なにより、侯爵から鍵を奪って放り投げられ、彼を置いて皇太子殿下とヴァスコの様子を見に行ったこと……。
あのとき、彼はすでに限界を超えていたのである。それなのに、彼は一人残って侯爵と戦ってくれた。
彼は自分が侯爵をノックアウト出来なかったことを、手応えでわかっていたに違いない。