聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい
カッコつけ野郎とバカな女
「マリオ。あなたって、ほんとうにカッコつけてくれるわよね。あのとき、『おれは限界だ』とか『侯爵はまだグロッキーじゃない。一人にしないでくれ』って言ってくれれば、あなたを牢から連れだして侯爵を牢に閉じ込めたのよ。そうしていたら、あなたは死にそうになることなんてなかったのに」
わたしのバカ。
彼はわたしを助ける為、わたしに心配をかけない為に一人で残ってくれたのよ。
わかっていて、いまみたいなことを言う?
わたしってば、手の施しようのない最低最悪な女よね。
「ごめん。きみの言う通りだ」
彼はまた手を伸ばすと、今度はわたしの頬をやさしくなでた。
「おれはすでに限界だった。だが、侯爵が完全に参っているわけではないということに気がついていた。彼は、タフすぎる。このままでは、きみを守れないと判断した。きみだけじゃない。皇太子殿下とヴァスコもだ。時間がない。せめて、きみだけでも先に二人のもとへ行かせたかった。だからカッコつけたわけだ」
マリオは、静かに言う。
暗殺者のくせに、人殺しのくせに、人間として最もやってはいけない行為を生業としているくせに、彼はどうしてこんなにやさしいのだろう。
どうして他人のことを思いやることが出来るのだろう。
「自業自得ってやつだな。きみが牢を出て行った瞬間、力尽きて倒れてしまった。侯爵は、まるでそれを待っていたかのように起き上って来た。そして、彼はおれをいたぶってくれたけだ」
彼は、小さく笑った。
「またきみに助けられた。侯爵に首を絞め上げられて意識を失う直前、きみが牢に飛び込んできたのを感じた。ハハハッ!きみを助けたかったのに、結局そのきみに助けてもらったわけだ。おれは、情けないやつだな。暗殺者としても男としても……」
そんなことはない。けっして、そんなことはない。
彼がいたからこそ、わたしもどうにか生き残れた。もちろん、アヤもである。
アヤの六度目の死亡エンドを、あなたが阻止してくれた。わたしの二度目の死を迎えないようにしてくれた。
「まったくもう!もう終わったことじゃない。一応、みんな死ななかったんだし、あなたがムダにカッコつけたことは別にしても、「終わりよければそれでよし」よ。マリオ、クヨクヨしないで。いついつまでも愚痴っている方が、よっぽど情けないわ」
なんなのよ、わたし?いったい、どうしたっていうの?
ここは彼を抱きしめ、お礼を言うべきシーンじゃない。それから、顔を近づけ瞳を見合わせて視線を絡ませ合い、口づけって流れになるはずなのよ。
すくなくとも、小説ではそういう王道のドキドキきゅんきゅんくるシーンよ。
なのに、どうして?
前世のわたしだったら、男が情けないことを吐こうものならイラっときてバカにしたり嘲笑った。
だけど、いまは違う。前世のわたしとは違う。
なのに、なぜ?
ことごとく強がったり正反対のことを、口走ってしまうわけ?
どうして素直に言えないわけ?
「きみの言う通りだ。情けないことは言うべきじゃない」
自分自身にたいして心と頭の中で責めたり呆れ返ったり質問を繰り返したりしていると、彼がつぶやいた。
反射的に彼を見ると、彼はまた手を伸ばしてきた。その手が、わたしの首筋に触れた。
一瞬、侯爵に首を絞められたときの侯爵《かれ》の形相を思い出し、震えてしまった。
「すまない」
体が震えたのを、彼に気づかれてしまった。
「きみは、大丈夫なのか?指の跡がはっきりついている」
彼に指摘され、はじめて自分の首に指の跡がついていることを知った。
「大丈夫よ。それよりも……」
そのことを知った瞬間、急に現実に引き戻されてしまった。
気持ちは、いまは完全に侯爵へと戻ってしまっている。
「きみがいまから言おうとしていることだけど、先に「わからない」と答えておくよ。ほんとうに何もわからないんだ。っていうよりかは、是非ともおれが知りたいね」
彼は、わたしの心を読んだのね。先手をうたれてしまった。
わたしが彼に尋ねたかったことにたいして、彼は知らないと先に答えたのである。
侯爵が彼にたいして言った「忌み子」や「売女の子」について、彼が何か知らないかを確認したかった。
マリオもわたしも、侯爵とは出会ってまだ十日かそこらかしか経っていない。侯爵は、どうしてそんな相手にそういう罵詈雑言が吐けるわけ?
戦う際、相手を嘲笑したりあおったり悪口雑言吐いたりすることはある。だけど、それが「忌み子」や「売女の子」というのは、あまりない言葉である。
そうかんがえても、侯爵はマリオのことを知っている。その上での罵りの言葉としか思いようがない。
わたしのバカ。
彼はわたしを助ける為、わたしに心配をかけない為に一人で残ってくれたのよ。
わかっていて、いまみたいなことを言う?
わたしってば、手の施しようのない最低最悪な女よね。
「ごめん。きみの言う通りだ」
彼はまた手を伸ばすと、今度はわたしの頬をやさしくなでた。
「おれはすでに限界だった。だが、侯爵が完全に参っているわけではないということに気がついていた。彼は、タフすぎる。このままでは、きみを守れないと判断した。きみだけじゃない。皇太子殿下とヴァスコもだ。時間がない。せめて、きみだけでも先に二人のもとへ行かせたかった。だからカッコつけたわけだ」
マリオは、静かに言う。
暗殺者のくせに、人殺しのくせに、人間として最もやってはいけない行為を生業としているくせに、彼はどうしてこんなにやさしいのだろう。
どうして他人のことを思いやることが出来るのだろう。
「自業自得ってやつだな。きみが牢を出て行った瞬間、力尽きて倒れてしまった。侯爵は、まるでそれを待っていたかのように起き上って来た。そして、彼はおれをいたぶってくれたけだ」
彼は、小さく笑った。
「またきみに助けられた。侯爵に首を絞め上げられて意識を失う直前、きみが牢に飛び込んできたのを感じた。ハハハッ!きみを助けたかったのに、結局そのきみに助けてもらったわけだ。おれは、情けないやつだな。暗殺者としても男としても……」
そんなことはない。けっして、そんなことはない。
彼がいたからこそ、わたしもどうにか生き残れた。もちろん、アヤもである。
アヤの六度目の死亡エンドを、あなたが阻止してくれた。わたしの二度目の死を迎えないようにしてくれた。
「まったくもう!もう終わったことじゃない。一応、みんな死ななかったんだし、あなたがムダにカッコつけたことは別にしても、「終わりよければそれでよし」よ。マリオ、クヨクヨしないで。いついつまでも愚痴っている方が、よっぽど情けないわ」
なんなのよ、わたし?いったい、どうしたっていうの?
ここは彼を抱きしめ、お礼を言うべきシーンじゃない。それから、顔を近づけ瞳を見合わせて視線を絡ませ合い、口づけって流れになるはずなのよ。
すくなくとも、小説ではそういう王道のドキドキきゅんきゅんくるシーンよ。
なのに、どうして?
前世のわたしだったら、男が情けないことを吐こうものならイラっときてバカにしたり嘲笑った。
だけど、いまは違う。前世のわたしとは違う。
なのに、なぜ?
ことごとく強がったり正反対のことを、口走ってしまうわけ?
どうして素直に言えないわけ?
「きみの言う通りだ。情けないことは言うべきじゃない」
自分自身にたいして心と頭の中で責めたり呆れ返ったり質問を繰り返したりしていると、彼がつぶやいた。
反射的に彼を見ると、彼はまた手を伸ばしてきた。その手が、わたしの首筋に触れた。
一瞬、侯爵に首を絞められたときの侯爵《かれ》の形相を思い出し、震えてしまった。
「すまない」
体が震えたのを、彼に気づかれてしまった。
「きみは、大丈夫なのか?指の跡がはっきりついている」
彼に指摘され、はじめて自分の首に指の跡がついていることを知った。
「大丈夫よ。それよりも……」
そのことを知った瞬間、急に現実に引き戻されてしまった。
気持ちは、いまは完全に侯爵へと戻ってしまっている。
「きみがいまから言おうとしていることだけど、先に「わからない」と答えておくよ。ほんとうに何もわからないんだ。っていうよりかは、是非ともおれが知りたいね」
彼は、わたしの心を読んだのね。先手をうたれてしまった。
わたしが彼に尋ねたかったことにたいして、彼は知らないと先に答えたのである。
侯爵が彼にたいして言った「忌み子」や「売女の子」について、彼が何か知らないかを確認したかった。
マリオもわたしも、侯爵とは出会ってまだ十日かそこらかしか経っていない。侯爵は、どうしてそんな相手にそういう罵詈雑言が吐けるわけ?
戦う際、相手を嘲笑したりあおったり悪口雑言吐いたりすることはある。だけど、それが「忌み子」や「売女の子」というのは、あまりない言葉である。
そうかんがえても、侯爵はマリオのことを知っている。その上での罵りの言葉としか思いようがない。