聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい
皇太子殿下ももう大丈夫
「直接侯爵に尋ねるしかないわね。あっ、忘れていたわ。侯爵は、まだ生きているのよ。地下牢に閉じ込めているわ」
「だったら、さっそく尋ねてみようじゃないか」
マリオは、そう言うなり起き上がろうとした。
「バカなこと言わないで。まだムリよ」
「大丈夫さ。なにせ聖女様に癒してもらったんだ。って、きみが癒し?マジかい?」
彼の背中に腕をまわし、彼が起き上るのを手伝った。
「怪しげかもしれないけど、一応は聖女様よ。とつじょ目覚めたというわけ」
「とつじょ目覚めた?」
彼は、頓狂な声をあげた。
「なによもうっ!」
思わず、腐ってしまった。
「すまない。遅ればせながらでも、癒しの力に目覚めてくれてよかった。おれはそのお蔭で助かったわけだからね」
「あなた、ほんとに一言多いわよね」
「だから、すまないって。それよりも、アヤ……」
二人の顔の距離が近い。視線を合わせたまま彼が何か言おうとしたタイミングで、部屋の扉がノックされた。
その音の大きさに、二人同時にビクッとしてしまった。
やって来たのは、皇太子殿下とヴァスコだった。
皇太子殿下は走り回るほどではないにしろ、しっかりとした歩調でわたしに近付いて来て、さらにしっかりとした口調でお礼を言ってくれた。
皇太子殿下も、もう大丈夫ね。
彼のもともとの病を癒したわけじゃない。さきほどのは、二酸化炭素でほぼ死にかけていたのを蘇生しただけである。
皇太子殿下やマリオの蘇生がうまくいったことは、じつはわたし自身が一番驚いている。
だけど、彼のもともとの病を癒すには、わたしではまだムリかもしれない。
もっと経験を積まなければならないかもしれないし、そもそも出来ないかもしれない。
それでも、皇太子殿下は死なずにこうして会話をしている。
ほんとうによかった。
アヤに感謝してもしきれない。
皇太子殿下は、マリオとも無事を、というよりかは蘇生したことをよろこびあった。
それから、四人で地下牢に行くことになった。
侯爵に語ってもらわねばならない。自主的になるか強制的になるかは、いまのところわからないけれど。
マリオとわたしだけでなく、皇太子殿下やヴァスコをも巻き込んだこの騒動を解決するために。
そして、すべての謎を解くために……。
侯爵は、鉄鎖でグルグル巻きにして牢の寝台の上に転がしている。
もう暴れる元気はないだろうけど、あれだけマリオとわたしに痛めつけられてもなお驚異的な力を発揮してくれたのである。
底なしの力を遺憾なく発揮でもされれば、今度こそやられてしまうかもしれない。
だからこそ、彼の動きを封じることにした。
これでまだ動けるようなら、いずれにせよわたしたちに勝ち目はないでしょう。
鉄鎖は、牢の一つに放置してあった。どうやらその牢は、拷問部屋に使われていたようである。錆びついた拷問器具が幾つか放置してある。それらは侯爵の趣味の逸品か、あるいは先人のものかはわからない。
いずれにせよ血や汗や涙や糞尿だけでなく、憎悪や怨嗟などゾッとする何かが憑いているそれらの器具は、ある意味歴史的価値がありそうなほど昔のものであることは間違いない。
皇太子殿下には刺激的すぎるかもしれない。だから、ヴァスコが部屋で待っているようお願いした。が、皇太子殿下は拒否した。
真実を知りたい。
彼もまた、何かを感じているのかもしれない。何か虫の知らせのようなものを察しているのかもしれない。
だから、いっしょに地下牢にやって来ている。
マリオと最初にやって来たときと同じように、ときおりどこかで水の落ちる音がしている。
四人で寝台に転がされている侯爵を見下ろしている。
「ロメロ・マルコーニ侯爵。父の親友だということで、貴公を信じてここまでやって来た。殿下を殺害しようとするとは、これはゆゆしき問題だぞ。両国がまた戦争になってもおかしくないことを、貴公はしでかしたのだ」
ヴァスコが切り出した。
侯爵は、きこえているはずなのに口を閉ざしている。
わたしが斬り裂いた両目から、涙のように血が頬を伝って冷たい石の寝台に落ちて行く。
「侯爵、どう釈明するつもりだ?」
ヴァスコは、さらに責める。
「フフフ」
すると、侯爵が含み笑いをはじめた。
不気味きわまりない笑い声だけど、鉄鎖をグルグル巻きにされて転がされている状態では滑稽に見えてしまう。
「売女にかかわるすべての連中を、地獄の底に落としたかっただけだ」
侯爵の笑い方は、いまや狂人めいている。
頭の線と心の箍がはずれてしまったのね。
っていうか、すでにはずれまくっていたのね。
「だったら、さっそく尋ねてみようじゃないか」
マリオは、そう言うなり起き上がろうとした。
「バカなこと言わないで。まだムリよ」
「大丈夫さ。なにせ聖女様に癒してもらったんだ。って、きみが癒し?マジかい?」
彼の背中に腕をまわし、彼が起き上るのを手伝った。
「怪しげかもしれないけど、一応は聖女様よ。とつじょ目覚めたというわけ」
「とつじょ目覚めた?」
彼は、頓狂な声をあげた。
「なによもうっ!」
思わず、腐ってしまった。
「すまない。遅ればせながらでも、癒しの力に目覚めてくれてよかった。おれはそのお蔭で助かったわけだからね」
「あなた、ほんとに一言多いわよね」
「だから、すまないって。それよりも、アヤ……」
二人の顔の距離が近い。視線を合わせたまま彼が何か言おうとしたタイミングで、部屋の扉がノックされた。
その音の大きさに、二人同時にビクッとしてしまった。
やって来たのは、皇太子殿下とヴァスコだった。
皇太子殿下は走り回るほどではないにしろ、しっかりとした歩調でわたしに近付いて来て、さらにしっかりとした口調でお礼を言ってくれた。
皇太子殿下も、もう大丈夫ね。
彼のもともとの病を癒したわけじゃない。さきほどのは、二酸化炭素でほぼ死にかけていたのを蘇生しただけである。
皇太子殿下やマリオの蘇生がうまくいったことは、じつはわたし自身が一番驚いている。
だけど、彼のもともとの病を癒すには、わたしではまだムリかもしれない。
もっと経験を積まなければならないかもしれないし、そもそも出来ないかもしれない。
それでも、皇太子殿下は死なずにこうして会話をしている。
ほんとうによかった。
アヤに感謝してもしきれない。
皇太子殿下は、マリオとも無事を、というよりかは蘇生したことをよろこびあった。
それから、四人で地下牢に行くことになった。
侯爵に語ってもらわねばならない。自主的になるか強制的になるかは、いまのところわからないけれど。
マリオとわたしだけでなく、皇太子殿下やヴァスコをも巻き込んだこの騒動を解決するために。
そして、すべての謎を解くために……。
侯爵は、鉄鎖でグルグル巻きにして牢の寝台の上に転がしている。
もう暴れる元気はないだろうけど、あれだけマリオとわたしに痛めつけられてもなお驚異的な力を発揮してくれたのである。
底なしの力を遺憾なく発揮でもされれば、今度こそやられてしまうかもしれない。
だからこそ、彼の動きを封じることにした。
これでまだ動けるようなら、いずれにせよわたしたちに勝ち目はないでしょう。
鉄鎖は、牢の一つに放置してあった。どうやらその牢は、拷問部屋に使われていたようである。錆びついた拷問器具が幾つか放置してある。それらは侯爵の趣味の逸品か、あるいは先人のものかはわからない。
いずれにせよ血や汗や涙や糞尿だけでなく、憎悪や怨嗟などゾッとする何かが憑いているそれらの器具は、ある意味歴史的価値がありそうなほど昔のものであることは間違いない。
皇太子殿下には刺激的すぎるかもしれない。だから、ヴァスコが部屋で待っているようお願いした。が、皇太子殿下は拒否した。
真実を知りたい。
彼もまた、何かを感じているのかもしれない。何か虫の知らせのようなものを察しているのかもしれない。
だから、いっしょに地下牢にやって来ている。
マリオと最初にやって来たときと同じように、ときおりどこかで水の落ちる音がしている。
四人で寝台に転がされている侯爵を見下ろしている。
「ロメロ・マルコーニ侯爵。父の親友だということで、貴公を信じてここまでやって来た。殿下を殺害しようとするとは、これはゆゆしき問題だぞ。両国がまた戦争になってもおかしくないことを、貴公はしでかしたのだ」
ヴァスコが切り出した。
侯爵は、きこえているはずなのに口を閉ざしている。
わたしが斬り裂いた両目から、涙のように血が頬を伝って冷たい石の寝台に落ちて行く。
「侯爵、どう釈明するつもりだ?」
ヴァスコは、さらに責める。
「フフフ」
すると、侯爵が含み笑いをはじめた。
不気味きわまりない笑い声だけど、鉄鎖をグルグル巻きにされて転がされている状態では滑稽に見えてしまう。
「売女にかかわるすべての連中を、地獄の底に落としたかっただけだ」
侯爵の笑い方は、いまや狂人めいている。
頭の線と心の箍がはずれてしまったのね。
っていうか、すでにはずれまくっていたのね。