聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい
その正体は……
「すまない。ジョークだよ、ジョーク。きみが、言いだしやすいようにちょっと笑いをとりたかっただけだ」
「だとしたら、もっと無難な話題にした方がよかったわね」
まったくもう。あなたは、言い訳が多いのよ。
わたし、彼に謝らせてばかりいるような気がするんだけど。
わたしも悪いのね。昔は、って前世のわたし自身のときのことだけど、そのときには男を手玉にとっていたのに、アヤに憑依してからはどうも調子が狂ってしまう。
「おれは、きみに謝ってばかりいる気がする。気のせいだな、きっと」
マリオは、まるでわたしの心を読んだかのようにつぶやいた。
目と目が合うと、彼はワイルドな美形にいたずらっぽい笑みを浮かべた。
ドキリとした。その笑みがとっても素敵だと心から感じた。
「気のせいじゃないわ。あなた、わたしのことをからかったりいじってばかりいるからよ」
彼にたいする気持ちをごまかす為、わざとぶっきらぼうに言った。言いながら、軍用ナイフを彼の首筋からはなして鞘におさめた。
それから、鞘ごと腰に差し込んだ。
彼はわたしの言ったことを否定も肯定もせず、指先で頬の傷をなぞった。
わたしが傷つけた頬の傷を……。
「わたしは、いずれにしてもいまのこのアヤの姿とはかけ離れた容姿ですものね。期待させちゃってごめんなさい。どうせなら、アヤみたいに容姿端麗、可愛げがあってやさしくってお淑やかっていう方が、ずっとずっとよかったわよね」
自分でも、やっかんでいるみたいなことを言うのか不思議でならない。
いまさらカリーナ身の姿なんて、どうだっていいことである。結局は、このアヤの姿からどうしようもないのだから。たしかに、容姿はともかく性格は以前のわたしのままかもしれないけれど。
「おいおい、何を不貞腐れているんだい。きみの前の容姿なんて、どうでもいいことじゃないか。いまのその姿から変えようもないんだから」
そう思っているタイミングで、彼にそう指摘されたものだから余計に意地になってしまう。
「そんなことくらい、わかっているわよ」
わたしって、マジで可愛くなさすぎる。
「どうもおれはきみを怒らせたり不愉快にさせたりして、嫌な男だよな。その、なんていうか、慣れていなくって、正直、きみにどう接すればいいかわからないんだ」
それは、わたしも同様よ。
だまっていると、彼はまた頬の傷を指先でなぞった。
「それで、きみの正体というか、きみの前世の話しだったよな」
そうだった。それを告げようとしておかしなことになったんだった。
っていうか、わたしがどんどんおかしなことにしているのね、きっと。
「そうね。そうだったわ」
小さな溜息とともに、言葉を吐きだしていた。
これが彼のまったく知らない女だったら問題はない。
彼の知っている女だからころ、問題なのよ。
しかも、つい先日だけでなく前世でも死闘を繰り広げた相手だし、よりによって彼の頬に傷を付けた張本人だし。
それでもまた、絶世の美女だったりセクシーな女性暗殺者であればよかった。だけど、わたしはそのどちらでもない。かけ離れすぎている。
「そこまで焦らしておいて、言いにくいわけ?」
また彼がいじってきた。だから、にらみつけてやろうとして彼を見た。
これまでとはうってかわり、ワイルドな美形は真剣な表情である。
「そ、そんなことはないわ……」
ムッときて言い返そうとしたところ、彼の指がわたしの唇に触れた。
「おれが当てるよ。おれの知っている女性《ひと》だ。親密というわけじゃない。だけど、ある意味では親密以上の関係だ」
真剣な表情がやわらぎ、いたずらっ子のような笑みに彩られた。
唇に彼の指先が触れたままで何も言い返せないでいるわたしに、彼は続ける。
「きみの正体は、カリーナ・ガリアーニ。凄腕の暗殺者。そして、おれの頬に傷をつけ、おれを負かした唯一の人物だ」
ただただ呆然とするしかない。
彼はそのわたしを見つめたまま、小さく笑った。
勝ち誇ったという感じではない。わたしのショックを和らげるような、そんな思いやりのこもった笑い方だった。
「マリオ、どうして……」
「シーッ!」
やっとのことで言いかけたけど、彼はわたしの唇に触れていた指を自分の|唇《それ⦆の前で立てた。
「ある意味では、きみがあの強くってクールな好敵手のカリーナだということに心からホッとしているよ。だって、そうだろう?この世の中におれを余裕で傷つけることの出来る女性が二人もいるなんて、かんがえただけでゾッとするよ」
彼は、苦笑とともに両肩をすくめた。
「だとしたら、もっと無難な話題にした方がよかったわね」
まったくもう。あなたは、言い訳が多いのよ。
わたし、彼に謝らせてばかりいるような気がするんだけど。
わたしも悪いのね。昔は、って前世のわたし自身のときのことだけど、そのときには男を手玉にとっていたのに、アヤに憑依してからはどうも調子が狂ってしまう。
「おれは、きみに謝ってばかりいる気がする。気のせいだな、きっと」
マリオは、まるでわたしの心を読んだかのようにつぶやいた。
目と目が合うと、彼はワイルドな美形にいたずらっぽい笑みを浮かべた。
ドキリとした。その笑みがとっても素敵だと心から感じた。
「気のせいじゃないわ。あなた、わたしのことをからかったりいじってばかりいるからよ」
彼にたいする気持ちをごまかす為、わざとぶっきらぼうに言った。言いながら、軍用ナイフを彼の首筋からはなして鞘におさめた。
それから、鞘ごと腰に差し込んだ。
彼はわたしの言ったことを否定も肯定もせず、指先で頬の傷をなぞった。
わたしが傷つけた頬の傷を……。
「わたしは、いずれにしてもいまのこのアヤの姿とはかけ離れた容姿ですものね。期待させちゃってごめんなさい。どうせなら、アヤみたいに容姿端麗、可愛げがあってやさしくってお淑やかっていう方が、ずっとずっとよかったわよね」
自分でも、やっかんでいるみたいなことを言うのか不思議でならない。
いまさらカリーナ身の姿なんて、どうだっていいことである。結局は、このアヤの姿からどうしようもないのだから。たしかに、容姿はともかく性格は以前のわたしのままかもしれないけれど。
「おいおい、何を不貞腐れているんだい。きみの前の容姿なんて、どうでもいいことじゃないか。いまのその姿から変えようもないんだから」
そう思っているタイミングで、彼にそう指摘されたものだから余計に意地になってしまう。
「そんなことくらい、わかっているわよ」
わたしって、マジで可愛くなさすぎる。
「どうもおれはきみを怒らせたり不愉快にさせたりして、嫌な男だよな。その、なんていうか、慣れていなくって、正直、きみにどう接すればいいかわからないんだ」
それは、わたしも同様よ。
だまっていると、彼はまた頬の傷を指先でなぞった。
「それで、きみの正体というか、きみの前世の話しだったよな」
そうだった。それを告げようとしておかしなことになったんだった。
っていうか、わたしがどんどんおかしなことにしているのね、きっと。
「そうね。そうだったわ」
小さな溜息とともに、言葉を吐きだしていた。
これが彼のまったく知らない女だったら問題はない。
彼の知っている女だからころ、問題なのよ。
しかも、つい先日だけでなく前世でも死闘を繰り広げた相手だし、よりによって彼の頬に傷を付けた張本人だし。
それでもまた、絶世の美女だったりセクシーな女性暗殺者であればよかった。だけど、わたしはそのどちらでもない。かけ離れすぎている。
「そこまで焦らしておいて、言いにくいわけ?」
また彼がいじってきた。だから、にらみつけてやろうとして彼を見た。
これまでとはうってかわり、ワイルドな美形は真剣な表情である。
「そ、そんなことはないわ……」
ムッときて言い返そうとしたところ、彼の指がわたしの唇に触れた。
「おれが当てるよ。おれの知っている女性《ひと》だ。親密というわけじゃない。だけど、ある意味では親密以上の関係だ」
真剣な表情がやわらぎ、いたずらっ子のような笑みに彩られた。
唇に彼の指先が触れたままで何も言い返せないでいるわたしに、彼は続ける。
「きみの正体は、カリーナ・ガリアーニ。凄腕の暗殺者。そして、おれの頬に傷をつけ、おれを負かした唯一の人物だ」
ただただ呆然とするしかない。
彼はそのわたしを見つめたまま、小さく笑った。
勝ち誇ったという感じではない。わたしのショックを和らげるような、そんな思いやりのこもった笑い方だった。
「マリオ、どうして……」
「シーッ!」
やっとのことで言いかけたけど、彼はわたしの唇に触れていた指を自分の|唇《それ⦆の前で立てた。
「ある意味では、きみがあの強くってクールな好敵手のカリーナだということに心からホッとしているよ。だって、そうだろう?この世の中におれを余裕で傷つけることの出来る女性が二人もいるなんて、かんがえただけでゾッとするよ」
彼は、苦笑とともに両肩をすくめた。