聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい
可愛くないよな
「ああ。だけど信じたくなかったし、かんがえたり想像などしたくなかった。双子やよく似すぎている兄弟ならば、彼に迷惑がかかってしまう。彼は、ヴェッキオ皇国の皇太子だ。皇太子に暗殺者の身内がいるなどということがわかったら、それこそ政敵やほかの皇子たちのいい情報になる。彼を皇太子の座から引きずり下ろすことのね」
彼は、わたしを見上げて両肩をすくめた。
顔色はすっかりよくなっている。
心からホッとした。
「マリオ。あなた、ほんとうに暗殺者なの?性格的に向いていないんじゃないかしら」
苦笑してしまった。
もちろん、人間としては申し分のない性格であることはいうまでもない。
「一応、暗殺者さ。自分でも向いていないって思っているよ。前にも言った通り、おれは強い奴と戦いたいだけだから。そうなると、軍に入るか荒っぽい稼業に従事するしかないだろう?」
「ほんと、あなたっておかしな人ね。それはともかく、あなただけでなく皇太子殿下も緊張していると思うのよ。マリオ。あなたと彼とでは、育った環境や性格やその他もろもろの状況がまったく違うわ。無理に合わせようとしたり、慣れ合ったりしなくてもいいんじゃないかしら。自然な形でわかり合えれば、それが一番いいと思うのよ。それが出来なければ、皇太子殿下の前から去ればいい」
「アヤ、そのことなんだが……。出来れば、彼を助けたい。双子の兄というよりかは、暗殺者から命を助けたその延長線上というかついでというか、彼が憂いなく皇太子であり続けられるように出来ることをやりたいと思っている。それがたとえ人を殺すことになってもだ。その上で、彼の前から去りたい。これも何かの縁だから」
意外だとは思わなかった。
人のいい彼のことである。もしかすると、いま彼が言ったようなことを望むのではないかと推測していた。
「あなたらしいわ。いいんじゃないかしら。彼の健康上の問題のことはあるけど。もしかしたら、そっちはわたしが、というよりかはアヤの力でどうにかなるかもしれないし」
「ということは、きみも付き合ってくれるんだね?」
「仕方がないでしょう?わたしだって皇太子殿下の命を助けたんだし、あなたに付き合うしかないわ」
胡坐をかいている彼を見下ろしつつ、エラソーに言ってみた。
「ったく、可愛くないよな」
彼はわたしから視線をそらし、口の中でつぶやいた。
「悪かったわね」
言葉とともに、軽くローキックを放った。
「パシッ!」
彼が手をあげそれを受け止めた音が響く。
「でも、いいのかい?ムダに血を流すことになるかもしれないよ」
「出来るだけそうならないよう、頭を使いましょう。一応、わたしは聖女だし。その肩書を使って、なんとかなればいい。アヤの六度目までの死は回避出来たことだし、これからはアヤとわたしのあたらしい人生。いい人生になるよう、がんばらなきゃ」
「ああ、そうだね。おれも死にかけて生き返った。あたらしい人生ってわけだ」
彼は、身軽に立ち上がった。
そして、わたしたちは彼の部屋を出た。
彼とアヤとわたし、三人のあらたな人生の第一歩を踏み出すために。
皇太子殿下は、意外にもしっかりと現実を受け止めていた。あまりにもすんなり受け止めていたので、マリオと二人で拍子抜けしてしまったほどである。
だけど、それは現実を、つまりマリオという双子の弟がいるということについて受け止めているだけであって、当のマリオにたいしての感情は意味が違う。
それはもうよろこんでいた。涙と鼻水をたらし、マリオをひしと抱きしめて。
下手をすれば、マリオにとってかわられるかもしれない。そんな可能性など、まったくかんがえもおよばないのだろう。
やはり、皇太子殿下は世間知らずなところがある。
こんな調子なら、体の不調でというよりかはほかの皇子たちや政敵によっていまの地位から引きずり下ろされてもおかしくない。
だけどそういう性質や人柄が、現皇帝が彼を選んだ理由の一つかもしれない。
感動の兄弟対面の後、四人で偽侯爵の処遇について話し合った。
そして、結局偽侯爵はあの地下牢に放置することにした。
運がよければ、古城に通ってくる老夫婦が見つけるかもしれない。
だけど、その老夫婦も地下牢があることは知らないはず。そして、そこへ通じる鍵がどこにあるのかも。
ということは、そうとうな悪運の持ち主でないかぎり、生きてあの地下牢を出ることは出来ない。
実質、ジワジワと死なせるようなものである。
皇太子殿下は、それでも彼を生かしたいと思っている。充分、そのチャンスがあるとかんがえている。
いろいろな意味で甘いかんがえである。しかし、ヴァスコもマリオもわたしも彼のその甘いかんがえを否定しなかった。
そして、わたしたちは古城をあとにした。
向かうは隣国。
ヴァスコのお兄さんの領地である。
彼は、わたしを見上げて両肩をすくめた。
顔色はすっかりよくなっている。
心からホッとした。
「マリオ。あなた、ほんとうに暗殺者なの?性格的に向いていないんじゃないかしら」
苦笑してしまった。
もちろん、人間としては申し分のない性格であることはいうまでもない。
「一応、暗殺者さ。自分でも向いていないって思っているよ。前にも言った通り、おれは強い奴と戦いたいだけだから。そうなると、軍に入るか荒っぽい稼業に従事するしかないだろう?」
「ほんと、あなたっておかしな人ね。それはともかく、あなただけでなく皇太子殿下も緊張していると思うのよ。マリオ。あなたと彼とでは、育った環境や性格やその他もろもろの状況がまったく違うわ。無理に合わせようとしたり、慣れ合ったりしなくてもいいんじゃないかしら。自然な形でわかり合えれば、それが一番いいと思うのよ。それが出来なければ、皇太子殿下の前から去ればいい」
「アヤ、そのことなんだが……。出来れば、彼を助けたい。双子の兄というよりかは、暗殺者から命を助けたその延長線上というかついでというか、彼が憂いなく皇太子であり続けられるように出来ることをやりたいと思っている。それがたとえ人を殺すことになってもだ。その上で、彼の前から去りたい。これも何かの縁だから」
意外だとは思わなかった。
人のいい彼のことである。もしかすると、いま彼が言ったようなことを望むのではないかと推測していた。
「あなたらしいわ。いいんじゃないかしら。彼の健康上の問題のことはあるけど。もしかしたら、そっちはわたしが、というよりかはアヤの力でどうにかなるかもしれないし」
「ということは、きみも付き合ってくれるんだね?」
「仕方がないでしょう?わたしだって皇太子殿下の命を助けたんだし、あなたに付き合うしかないわ」
胡坐をかいている彼を見下ろしつつ、エラソーに言ってみた。
「ったく、可愛くないよな」
彼はわたしから視線をそらし、口の中でつぶやいた。
「悪かったわね」
言葉とともに、軽くローキックを放った。
「パシッ!」
彼が手をあげそれを受け止めた音が響く。
「でも、いいのかい?ムダに血を流すことになるかもしれないよ」
「出来るだけそうならないよう、頭を使いましょう。一応、わたしは聖女だし。その肩書を使って、なんとかなればいい。アヤの六度目までの死は回避出来たことだし、これからはアヤとわたしのあたらしい人生。いい人生になるよう、がんばらなきゃ」
「ああ、そうだね。おれも死にかけて生き返った。あたらしい人生ってわけだ」
彼は、身軽に立ち上がった。
そして、わたしたちは彼の部屋を出た。
彼とアヤとわたし、三人のあらたな人生の第一歩を踏み出すために。
皇太子殿下は、意外にもしっかりと現実を受け止めていた。あまりにもすんなり受け止めていたので、マリオと二人で拍子抜けしてしまったほどである。
だけど、それは現実を、つまりマリオという双子の弟がいるということについて受け止めているだけであって、当のマリオにたいしての感情は意味が違う。
それはもうよろこんでいた。涙と鼻水をたらし、マリオをひしと抱きしめて。
下手をすれば、マリオにとってかわられるかもしれない。そんな可能性など、まったくかんがえもおよばないのだろう。
やはり、皇太子殿下は世間知らずなところがある。
こんな調子なら、体の不調でというよりかはほかの皇子たちや政敵によっていまの地位から引きずり下ろされてもおかしくない。
だけどそういう性質や人柄が、現皇帝が彼を選んだ理由の一つかもしれない。
感動の兄弟対面の後、四人で偽侯爵の処遇について話し合った。
そして、結局偽侯爵はあの地下牢に放置することにした。
運がよければ、古城に通ってくる老夫婦が見つけるかもしれない。
だけど、その老夫婦も地下牢があることは知らないはず。そして、そこへ通じる鍵がどこにあるのかも。
ということは、そうとうな悪運の持ち主でないかぎり、生きてあの地下牢を出ることは出来ない。
実質、ジワジワと死なせるようなものである。
皇太子殿下は、それでも彼を生かしたいと思っている。充分、そのチャンスがあるとかんがえている。
いろいろな意味で甘いかんがえである。しかし、ヴァスコもマリオもわたしも彼のその甘いかんがえを否定しなかった。
そして、わたしたちは古城をあとにした。
向かうは隣国。
ヴァスコのお兄さんの領地である。