聖女といえど六度の死亡エンドはうんざり。だから七回目は生き残った上で人生も恋も謳歌する予定です。追伸 暗殺者を憑依させましたので関係者はそのつもりでいて下さい
アレッシ家の屋敷にて
「おれの首尾はどうでしたか?」
マリオが皇太子殿下に尋ねた。
皇太子殿下の執務室、といいたいところだけど、皇太子殿下の執務室と宮殿の自室には隠し部屋があって、きき耳を立てている執事や侍女たちがいるらしい。
というわけで、ヴァスコのアレッシ家の皇都の屋敷に移ってきた。
アレッシ家の使用人たちの数は少ない。ヴァスコがほとんど宮殿に詰めていることもあり、最小限でまわしているらしい。しかも、ヴァスコみずからが厳選した使用人たちばかりで、絶対的に信頼出来るという。
以前から、政敵やほかの皇子たちから狙われた際には、こちらに移ってくる手はずになっていたらしい。
もちろん、わたしもアレッシ家の屋敷でお世話になることにした。
「またしてもスッキリさせてもらった。マリオ、ありがとう」
「いえ。またもややりすぎたような気がしますが……」
皇太子殿下は、顔の包帯をはずしてしまっている。マリオが照れ笑いを浮かべると、皇太子殿下も笑顔になった。
皇太子殿下も、元気を取り戻しつつある。
というのも、彼も皇帝陛下同様毒を盛られていたからである。
したがって、処置も皇帝陛下同様に行なっている。
「皇子皇女たちは、宰相以上に驚いた顔になっていましたね」
「ああ、ヴァスコ。これまで、わたしは末席で小さくなっていたからね。それが、あの豹変ぶりだ。驚くというよりかは、恐怖さえ感じたかもしれない。それもこれも、聖女様のお蔭でもあるな」
皇太子殿下の冗談に、マリオと顔を見合わせて思わず笑ってしまった。
「さて、これでだれかしら動いてくれればいいですな」
ヴァスコは、だれでもいいから皇太子殿下にちょっかいをだしてほしい、と言いたいわけである。
「やはり、それは危険なのではないのか?」
やさしい皇太子殿下は、ヴァスコからわたしへ、それからマリオへと視線を移した。
「ご心配なく。おれは、これでも荒っぽいことを生業としています。かえって命を狙われる方がやりやすい。精神的に追い詰められるよりかはずっと」
マリオは、きっぱりと言う。
そう。彼とわたしは、その方が性に合う。
そして、どんな腕を持つ暗殺者が大挙しておしよせてこようと、わたしたちなら対処出来るはずである。
「おれよりもあなたのことです」
「心配するな。殿下のことは、わたしが守り抜く」
ヴァスコが言いきった。
彼なら、かならずや守り抜く。
それは、わたしたちが暗殺者をうまくあしらうことが出来るのと同様まず間違いない。
「屋敷の周囲は、近衛隊が警備についています。もっとも、その中の何名が寝返っているか、もしくは飼われているからわかりませんが」
ヴァスコの言う通り、近衛隊と言えど信頼は出来ない。
ということは、いつなんどきも気が抜けないということね。
「とりあえず、続きの間を準備している。交代で睡眠をとろう」
「ヴァスコ、わたしも見張りをさせてくれ」
「殿下、あまり無理をなさらない方が……」
「いいんじゃないかしら。あまり無理しない程度で手伝っていただきましょうよ」
「ありがとう、アヤ」
というわけで、交代で続きの間で寝たふりをしているマリオを見張ることになった。
だけど、そんなに時間はかからなかった。
敵が暗殺者を送りこんで来るまでに、時間はかからなかったのである。
その日と翌日の夜は、無事に終わった。
ヴェッキオ皇国の皇都にやって来た三日目の夜、つまり、マリオがあらゆる人を煽った翌々日の夜、やって来たのである。
その夜、暗殺者たちはアレッシ家の屋敷に侵入した。
そのことに気がついたのは、マリオと同時だった。
日付はとっくの昔にかわっている。
夜目のきくわたしたちには、室内の灯りは必要ない。
もちろん、アレッシ家の邸内に侵入した暗殺者たちも同様のはず。
いずれにせよ、今夜の月はまぶしいくらいに煌々と地上を照らしている。
夜目がきかなくっても、ある程度視覚することは出来る。
カーテンを閉めたままの窓に近づき、向こうからは見えないよう様子をうかがってみた。
前庭の木々の間を、縫うように近づいて来る数は四名。おそらく、裏口にも同数が迫っているはずね。
「ワオッ!殺気が痛いほどだ。ヤル気満々だな」
マリオがわたしの横でつぶやいた。
皇太子殿下とヴァスコは、寝台の前で身を低くしている。
「見張りの近衛兵の怠慢かな?塀をよじ登ってきたわけじゃなさそうだ」
「マリオ、バカね。それを想定して、塀にもちゃんと見張りがいるわよ」
彼にもわたしにもわかっている。
「つまり、アレッシ家で見張りをしている近衛兵全員が、わたしたちの敵というわけだ」
そして、ヴァスコもまたわかっている。
そう断言すると、皇太子殿下が溜息をついた。
「わたしは、ずいぶんと嫌われているんだな」
その冗談に、マリオと二人で顔を見合わせてふいてしまった。
「殿下、彼らはお金や地位を欲しているだけです。あなた自身がどうといわけではありません」
「ありがとう、アヤ。かんがえてみれば、わたしは嫌われるほど目立ってもいないし、何かをしたわけでもないからね」
「殿下……」
ヴァスコが手を伸ばして皇太子殿下の肩をなでた。
それは、無意識の行動に違いない。
マリオが皇太子殿下に尋ねた。
皇太子殿下の執務室、といいたいところだけど、皇太子殿下の執務室と宮殿の自室には隠し部屋があって、きき耳を立てている執事や侍女たちがいるらしい。
というわけで、ヴァスコのアレッシ家の皇都の屋敷に移ってきた。
アレッシ家の使用人たちの数は少ない。ヴァスコがほとんど宮殿に詰めていることもあり、最小限でまわしているらしい。しかも、ヴァスコみずからが厳選した使用人たちばかりで、絶対的に信頼出来るという。
以前から、政敵やほかの皇子たちから狙われた際には、こちらに移ってくる手はずになっていたらしい。
もちろん、わたしもアレッシ家の屋敷でお世話になることにした。
「またしてもスッキリさせてもらった。マリオ、ありがとう」
「いえ。またもややりすぎたような気がしますが……」
皇太子殿下は、顔の包帯をはずしてしまっている。マリオが照れ笑いを浮かべると、皇太子殿下も笑顔になった。
皇太子殿下も、元気を取り戻しつつある。
というのも、彼も皇帝陛下同様毒を盛られていたからである。
したがって、処置も皇帝陛下同様に行なっている。
「皇子皇女たちは、宰相以上に驚いた顔になっていましたね」
「ああ、ヴァスコ。これまで、わたしは末席で小さくなっていたからね。それが、あの豹変ぶりだ。驚くというよりかは、恐怖さえ感じたかもしれない。それもこれも、聖女様のお蔭でもあるな」
皇太子殿下の冗談に、マリオと顔を見合わせて思わず笑ってしまった。
「さて、これでだれかしら動いてくれればいいですな」
ヴァスコは、だれでもいいから皇太子殿下にちょっかいをだしてほしい、と言いたいわけである。
「やはり、それは危険なのではないのか?」
やさしい皇太子殿下は、ヴァスコからわたしへ、それからマリオへと視線を移した。
「ご心配なく。おれは、これでも荒っぽいことを生業としています。かえって命を狙われる方がやりやすい。精神的に追い詰められるよりかはずっと」
マリオは、きっぱりと言う。
そう。彼とわたしは、その方が性に合う。
そして、どんな腕を持つ暗殺者が大挙しておしよせてこようと、わたしたちなら対処出来るはずである。
「おれよりもあなたのことです」
「心配するな。殿下のことは、わたしが守り抜く」
ヴァスコが言いきった。
彼なら、かならずや守り抜く。
それは、わたしたちが暗殺者をうまくあしらうことが出来るのと同様まず間違いない。
「屋敷の周囲は、近衛隊が警備についています。もっとも、その中の何名が寝返っているか、もしくは飼われているからわかりませんが」
ヴァスコの言う通り、近衛隊と言えど信頼は出来ない。
ということは、いつなんどきも気が抜けないということね。
「とりあえず、続きの間を準備している。交代で睡眠をとろう」
「ヴァスコ、わたしも見張りをさせてくれ」
「殿下、あまり無理をなさらない方が……」
「いいんじゃないかしら。あまり無理しない程度で手伝っていただきましょうよ」
「ありがとう、アヤ」
というわけで、交代で続きの間で寝たふりをしているマリオを見張ることになった。
だけど、そんなに時間はかからなかった。
敵が暗殺者を送りこんで来るまでに、時間はかからなかったのである。
その日と翌日の夜は、無事に終わった。
ヴェッキオ皇国の皇都にやって来た三日目の夜、つまり、マリオがあらゆる人を煽った翌々日の夜、やって来たのである。
その夜、暗殺者たちはアレッシ家の屋敷に侵入した。
そのことに気がついたのは、マリオと同時だった。
日付はとっくの昔にかわっている。
夜目のきくわたしたちには、室内の灯りは必要ない。
もちろん、アレッシ家の邸内に侵入した暗殺者たちも同様のはず。
いずれにせよ、今夜の月はまぶしいくらいに煌々と地上を照らしている。
夜目がきかなくっても、ある程度視覚することは出来る。
カーテンを閉めたままの窓に近づき、向こうからは見えないよう様子をうかがってみた。
前庭の木々の間を、縫うように近づいて来る数は四名。おそらく、裏口にも同数が迫っているはずね。
「ワオッ!殺気が痛いほどだ。ヤル気満々だな」
マリオがわたしの横でつぶやいた。
皇太子殿下とヴァスコは、寝台の前で身を低くしている。
「見張りの近衛兵の怠慢かな?塀をよじ登ってきたわけじゃなさそうだ」
「マリオ、バカね。それを想定して、塀にもちゃんと見張りがいるわよ」
彼にもわたしにもわかっている。
「つまり、アレッシ家で見張りをしている近衛兵全員が、わたしたちの敵というわけだ」
そして、ヴァスコもまたわかっている。
そう断言すると、皇太子殿下が溜息をついた。
「わたしは、ずいぶんと嫌われているんだな」
その冗談に、マリオと二人で顔を見合わせてふいてしまった。
「殿下、彼らはお金や地位を欲しているだけです。あなた自身がどうといわけではありません」
「ありがとう、アヤ。かんがえてみれば、わたしは嫌われるほど目立ってもいないし、何かをしたわけでもないからね」
「殿下……」
ヴァスコが手を伸ばして皇太子殿下の肩をなでた。
それは、無意識の行動に違いない。