捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
それから、何分経っただろう。
体感的に1時間は経っていたと思うけど、おそらく30分と戦ってない。
自分では体力があるつもりでも、2年間の王宮での令嬢生活は確実に身体能力を落としてた。
お父様もファルコも息一つ乱してないし汗もかいてないのに、わたしはもうすでに息が上がって汗だくでいる。常に最前線にいる現役騎士の体力は、やはり凄まじい。わたしは疲れが確実に蓄積してきて、動きも手足も重くなってきていた。
「次、行くぞ!」
「はい!……ごめんね、アクア。もう少し頑張って」
「ヴルゥ」
気にするな、と言うようにアクアは嘶いてくれる。アクアは昔から体力オバケで、他の馬が走るのをやめるときでも平気で駆け続けるし、馬にありがちな四肢の故障のしやすさはなく、頑丈さは折り紙付きだ。
それでいて、肝の座り方は尋常じゃない。
白毛馬や芦毛馬は戦場で目立つから嫌われがちだけど、アクアこそ最高の戦馬になれる!とわたしは信じてる。
「たあっ!」
お父様の凄まじい一撃を、なんとか木剣で受けて流す。たぶん、手加減はされてるけど……なんて重い一撃。木剣とはいえ体にまともに喰らえば、確実に致命傷になる。
次が、わたしの側の攻撃ターンだ!
ジンジンと痺れる右手から左手に木剣を持ち替え、ゆっくりとアクアをターンさせる。
速歩から駈歩(かけあし)へ、アクアの歩度(ほど)をゆっくり速めながら、わたしは構えた。