捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
「大丈夫ですか?」
「わぁーん!こわかったですぅ〜アスター殿下あぁ」
「……は?」
なんかわたしの腕で抱きとめた女性が、全然見当違いの名前を呼んで、ひっし!と抱きついてきたんですが……。
しかし、嫌な予感がする。
バラをベースにした甘ったるいフラワーパフューム。まきあげたふわふわの栗色の髪。
そして、この声。
「ま、あなた誰ですの!?失礼ね!勝手にあたしに触れないで!」
(やっぱり……レスター王子の婚約者のアニタ準男爵令嬢!)
バチンと頬を叩かれて呆然としてるうちに、アニタ嬢はするりとわたしの腕から逃れ、アスター王子に向かって腕を広げ胸に飛び込む。
「アスター殿下あぁ!アニタ、怖かったですうぅ……」
けど、アスター王子は間一髪ヒョイッと避けたから、アニタ嬢はそのまま剪定された灌木へ頭からダイブした。
……あらま、ズロース履いたお尻が丸見えですよ。腹ただしいから助けないけど。
「アニタ!」
そしてもっと最悪なことに、レスター王子がアニタ嬢を追って現れた。
(わたしは灌木……わたしは灌木)
木と同化してなんとかやり過ごそうとしたのに、なぜかレスター王子はわたしを見つけてしまう。
(うげ……最悪だ)
「ミリュエール……まさか、君か?」
見つかった以上、無視はできない。やむなく膝を着き騎士としての挨拶をした。
「レスター殿下、ご無沙汰いたしております。ご健勝なようで何よりでございます」
わたしが答えたことで、レスター王子はにやりと笑う。
そして、いつものアレを繰り出した。