捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
「まぁ、ミリィ!」
午後3時。お母様がアスター王子のタウンハウス、レッドフィールドに到着した。
車寄せで待っていたわたしを、藍色のドレスを着たお母様はすぐに抱きしめてくださる。
「髪を短くしたのね……でも、よく似合って可愛いわ。少し痩せたかしら?ちゃんとお食事取ってるの?」
「ありがとうございます、お母様。食事はきちんといただけてます。鍛えてるので筋肉が…ほら」
心配かけないように、と袖を捲って力こぶを見せると、お母様はクスッと笑う。そして、わたしの皮の厚くなった手のひらに触れた。
「剣士の手になってきたわね……まだ、痛むでしょう?」
「でも、最初よりはましです。毎日皮がむけ豆が破れて血まみれでしたから」
笑顔で答えると、お母様は安堵されたのか笑みを深くされた。
「……そう。いい環境に恵まれたようね。迷いのないいい目をしてるわ」
さすがに武人の妻。武芸はしなくとも、見抜く目は確かだった。
そして、お母様はアスター王子に向き合うと、腰を低めスカートを摘まんで淑女の挨拶をした。
「初めてお目にかかります、アスター殿下。ミリュエールの母の、マリアンヌ・フォン・エストアールでございます。この度はお招きいただき、ありがとうございます」
「遠いところからよく来てくださいました。なにもないところですが、どうぞご自宅と思いゆっくり寛いでください」
アスター王子も、そつのない挨拶を返す。こうして見れば美男子なんだけど……ね。