捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
“ミリュエール”
(……あれ?アスター王子?)
呼ばれて目を開ければ、アスター王子が目の前にいた。
でも、なにか違和感を感じる。
プラチナブロンドはもっと明るい金髪だし、淡い水色の瞳は深い蒼。
それに、何より。
アスター王子は、わたしをミリュエールとは呼ばない。最初から、愛称のミリィと呼んでいた。
「あなた……誰?あ、でも」
ハッと、思い出した。
レスター王子に婚約破棄された夜、騎士を目指すため再び王都へ行くためにお父様と勝負をした後。エストアール家の鍛錬場にいた金髪碧眼の男性!
あのとき、誰も見なかったと言って不思議だったけど。
「5ヶ月前、わたしの家の鍛錬場にいた人ですか?」
“そうだよ。ぼくは……ずっと見てきた。夢の国で”
「夢の国?」
“そう。夢の国は楽しい場所だよ。なんでも叶えられる。ミリュエール、君は騎士になりたいんだろ?なら、おいでよ。あんな辛い訓練をしたり、時間をかけなくてもすぐに騎士になれる”
アスター王子に似た男性は、くるくる、と踊るように軽やかに舞う。
周りの景色は淡い春の野のような、美しくてうららかな場所だった。
“ぼくも、母様と一緒に暮らしてるんだ。アスターはずるいんだよ。ぼくを追い出して母様を独り占めしてたからね。だから、ぼくが母様を夢の国に招待したんだよ”