捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?

アスター王子がずるい?そして、……母様を夢の国に!?

「あなたは……もしかして、ソニア妃の子どもなの?」

“半分だけ、正解かな?”

クスクス、とその人は笑う。アスター王子にそっくりなのに、無邪気な幼い子どもの表情は違和感があった。

“アスターはずるいよね。いつもいつも、ぼくが欲しいものばかり手に入れていくから。ぼくも母様と一緒に暮らしたかった。だけど今は夢の国で一緒にいる。だから、ミリュエール。君も夢の国においでよ”

わたしに向かって、その人は手を差し伸べてきた。

“夢の国は最高だよ。暑さも寒さも、飢えも病気もない。諍いも犯罪もないんだ。みんな楽しく暮らしてるよ……苦しみも痛みも、感じなくて済むんだ”

飢えも病気もない、暑さも寒さもない。諍いも犯罪もない。それが現実なら、どれだけの人が幸せになれるだろう。実に魅力的な提案だった。

「それが本当なら、素晴らしいよね」
“だろう?だから……”

喜々として、彼はわたしの手を取る。
けれども、わたしはその手を払い除けた。

「……それが現実ならば、ね。わたしは……自分だけ幸せでいいとは思わない!わたしは……みんなを幸せにしたい。ううん、そんなだいそれたことは言えない。わたしは、誰かが少しでも幸せになる手助けがしたい!」

そうだよ。
わたしが目指す、騎士のかたち。

微力でも、誰かを助けて……幸せの手伝いをしたい。今、はっきりとそう感じた。

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