捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
「アスター…なにか気になるのか?」
「はい」
アスター王子は頷くと、左下を指差す。そこでは甲高い声の勢子が、やたらと叫んでた。
「セジュール公爵家の勢子で、あの者が所属している事を確認できませんでした。臨時に雇われたリストにもありません」
「……なんだと?」
お父様はじっとその勢子を見下ろす。そして、ギリッと歯を食いしばった。
「……なんということだ。セルに似ていて、遠目には区別がつかなかった」
「副団長、急ぎましょう!」
カインさんが馬首を返し、急いで崖を降りようとする。けれども、アスター王子は予想外の行動を取った。
「暗殺者……!間に合いません!行きます!!」
アスター王子は愛馬クルーガーの横腹を蹴ると、勢いよく崖に向かって走る。
「アスター!」
「王子!!」
ふわ、と一瞬浮いたように見えたけれども。
その後すぐに急な斜面をクルーガーごと降りていく。巧みな手綱捌きで見事に降りきったのを見て、ほっとしたわたしも口笛を吹いた。
「アクア、おいで!」
「ヴヒィィン!!」
土煙を上げながら猛スピードで駆け寄ってきたアクアに、タイミングを見計らって飛び乗る。
「ミリィ、やめなさい!」
「ぼくはアスター殿下の小姓ですから!」
お父様が止めるのも聞かず、アクアとともに勢いよく崖にダイブした。