捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
ミリィの1日
「よし、鐘が鳴る前に起きられた!」
午前4時。5月でもまだ日が昇らない薄暗い時間帯に、わたしはベッドから飛び下りる。
寝間着のダルマティカから、規定のシャツとズボンに着替える。上からは宮廷に仕える小姓(こしょう)専用に作られた上着を羽織り、昨夜手入れした皮のブーツを履く。
鏡で身だしなみチェックをして、シワひとつないか確認。後ろで束ねた髪の毛も乱れなし。
「うん、完璧。行くぞ…!」
ついつい、男言葉になってしまうのも仕方ない。だって、仕える御主人様にそう指定されているのだから。
小姓の朝は早く、かつ忙しい。
城の雑事もするけれども、メインはやっぱりお仕えする騎士のお世話。
王宮に来て1か月は経つけど、まだまだ慣れないことだらけ。
「おはようございます!」
「おお、ミリィか。ちょうど朝飼い(あさがい・馬の朝食)の時間だよ」
王宮の厩舎は広大でとてもすべてはお世話しきれないから、朝一に近衛騎士団の厩舎に手伝いに来る。わたしの愛馬のアクアも、ここで預かってもらってる。
「今日は暑くなりそうだから、飼料の配合を変えた方がいいですよね…えっと、牧草の他にはえん麦と、トウモロコシと大麦と……」
馬丁(ばてい)のおじさんとは、すっかり顔見知り。
だいたい自由にさせてもらえてありがたい。
「トリップはバテ気味だからな。トレーニングを控えるから、あまり甘いものは食わせんなよ」
「はーい!」
人間と同じく、馬も健康状態や好き嫌いや運動量で配合に差がある。勉強、勉強の日々だ。