捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
「…アクア、先に回り込もう」
「ヴルッ!」
男性の進路はただ一つ、ふもとの村への最短ルートだろう。そう予測したわたしはアクアを使って、斜面の岩場を通り先回りをしておいた。
「あっ!」
案の定、細い道を必死に走ってきた男性を、わたしはアクアとともに挟み撃ちにして通せんぼする。ぎょっとした顔で足を止めた男性は、その辺りによくいそうな中肉中背の茶色い髪で、二十代前半くらい。
ただ、全体的に汚れていて服もつぎ当てがありボロボロ。わたしにまで怯え震えた様子から、とても自分で密猟という罪をやらす人には見えなかった。
「……戻りましょうか?」
「す、すみません!ごめんなさい!ゆるしてください!!ま、まさか……王様のものだとは思わなかったんです!」
その場で頭を抱えたままうずくまり、ガタガタ震えてる。涙声で顔も真っ青。その憐れな様子は任務とはいえ、胸が痛む。
「大丈夫です。ぼくがお仕えするアスター殿下は寛大な方ですから」
「ほ、本当ですか…?」
まるで縋るような目をされたら、NOとは言えない。でも、無責任な約束はしたくなかった。
「ですが、お許しくださるかどうかはわたしには決められません。ここで見逃すのは簡単ですが、それだとあなたはいつバレるか、捕まるかビクビクしながら暮らさねばならない。なら、今大人しく捕まって事情を話せばいいと思います。皆、情けを知らないわけではありません。窮状を訴えれば罪は減免されるでしょう」
わたしの説得に、男性は項垂れながらも同意してくれた。
「……わかりました…ぼくをお連れください。何もかも正直にお話します」