捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
「なんだい、こりゃ!?」
ピッツァさんが素っ頓狂に叫ぶのも、無理はなかった。なにせ、狩猟会の参加者に使用人に警護の騎士や森の番人に馬に…密猟者まで。皆一様に倒れていたのだから。
もしかして亡くなった?と焦ったけど、みんな呼吸もしてるし心臓も動いてる。ただただ、安らかな寝息を立てて眠り込んでいるだけだった。しかも、なんだか幸せそうに笑いながら。
いくら森を進んでも、状況は変わらない。むしろ、深部に行けば行くほどひどくなる気がした。
「こりゃ、ひどいね。アタシもあんたも、アスターがくれた護符が無けりゃきっとやられてた」
「はい」
今朝アスター王子に昨夜の夢の話をしたら、急いで護符を作ってくださった。朝からピッツァさんを召喚していたのも、危機感を感じたから?
アスター王子に指示されたポイントまで、あと少し。
わたし達が指定された場所まで馬を進めると、それはユニコーンが現れた沢だった。
けれども澄み切った空気は濁り、透明な川面は濃い霧が流れている。
「ここか……アスターはいないな?」
「ええ、でも大丈夫です。きっと間に合いますから」
アスター王子は理由あって別行動を取っているけれども、わたしは信じていた。アスター王子はきっとわたしを助けてくれると。
霧はますます次々と湧いて濃くなっていく。ピッツァさんの顔も見えなくなってきたころ、水が溜まった沢に変化が訪れた。