捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?

(いけない!早くしないと起きちゃう)

木桶の水をこぼさないように早足で向かう先は、近衛騎士の宿舎。王宮にあるだけあって、広大な敷地の中心に近い場所に位置してる。王族直属の騎士であり、身辺警護も担当するだけあって精鋭揃い……のはず、なんだけれども。

(な……なんじゃこりゃあああ!)

昨夜、確か御主人様がベッドに入る前に整理整頓を完璧にしておいたはず。なのになぜかクローゼットは開け放たれ、整えた書類は床に散らばり小物類は好き勝手に落ちてる。
足の踏み場もないとは、このことだ……と遠い目になりそうだ。

御主人様が今朝着るため整えておいた衣類も、見るも無惨な形でしわくちゃな上にインク壺のインクがべったり染みてる。

(どこをどうすれば……こんなふうに泥棒が入ったみたいに暴れられるんだろう……)

割れたインク壺を拾い集め、ため息をついて布に包む。

最初は驚いたけれども、1か月も経てばいい加減慣れてくる。サッサと手早く片付け、新しい服を出してベッドサイドに置き、洗面桶を汲んできた水で満たす。


「アスター王子!いい加減起きてください!!」

近所迷惑にならない程度の声量で声を掛ければ、布団がモコッと盛り上がる。けれども、それ以上の動きがなく痺れを切らして布団を引っ張れば、逆にグイッと引っ張り返された。

「いい加減、観念してください!今日も遅刻する気ですか!?」



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