捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
“いやだ、母様!ぼくは消えたくない…!!”
アスタークは必死に訴えた。
“母様は帰っていいよ!でも、ぼくはここにいたい!!”
“……違うわ、アスターク。あなたはわたくしのなかへ戻るの……赤子として”
“え……”
不思議なソニア妃の言葉に、わたしは思わず訊ねた。
「それは……アスタークがあなたのお腹で赤ちゃんになり…時が経てば産まれるということですか?」
“そのとおりよ、ミリュエール…”
“わたしが約束した。そなたから奪ったいのちを還す、と”
しゃらん…しゃらん…ベルの音とともに、アスタークの姿がユニコーンに変じた。
“アスタークの心を通じて、わたしは人の情(こころ)を学んだ。そして、いくらソニアがわたしの死に関わったとはいえ。赤子の命を奪うべきではなかった…それゆえ、わたしはわたしのいのちをソニアへ…アスタークに還す。その命はやがて芽吹き、赤子となって現世に生をうけるだろう”
ユニコーンは反省したように頭を下げ、粛々と謝罪する。でも、ユニコーンは…自分のいのちを無くす、ということ。それはつまり……。
「ユニコーン……あなたは……死ぬのですか?」
“いや、わたしたちに本来生死の概念はない。ただ、肉体を捨てて常世に赴くだけだ…”
そう言ったユニコーンはもう一度頭を下げ、顔を上げてから角を自ら折った。
“ミリュエール……誇り高き騎士よ。わたしの角をそなたに託す”
そう言い遺したユニコーンは絶命し……やがて体が消え去った。