捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
「と、とにかく……ほら」
「……?はい」
アスター王子が手を差し伸べるから、お腹が空いたのかと思いクッキーを手のひらに置いた。
「そのクッキー美味しいですよ!3枚もあればとりあえずお腹はどうにかなりますよね?」
「……………」
……なんだろう?アスター王子が固まってるし、周りの人はめちゃくちゃ笑ってる?
「ミリィ!アスター殿下はあなたをエスコートに来たのよ?」
お母様が小声で教えてくださったけど……。
「なんだ、アスター殿下。そうならそうとおっしゃってくださいよ。ぼくはこういうのは苦手なんですから」
あ、やっぱり男言葉の方がしっくり来る。とひとり頷いていると、ゴホンと咳払いをしたアスター王子は改めてわたしに申し出る。
「ミリュエール・フォン・エストアール嬢。あなたをエスコートする栄誉を、私に与えていただけますでしょうか?」
その場で跪くと、胸に手を当てて請うような眼差しを向けてくる。大袈裟な仕草が可笑しくて、吹き出さないように必死に表情を繕った。
(面白いなあ、アスター王子。きっとお芝居でもしてるつもりだね。なら、わたしも合わせないとね)
「はい、アスター殿下。わたくしでよければ喜んでパートナーに」
すると、アスター王子の顔がぱっと輝く。あからさまに喜んでるのは…わたしのお芝居がうまかったからかな?
アスター王子も貴族令嬢の婿候補にすごい熱視線だもんね!きっと令嬢避けなんだろう。
「でも、アスター殿下。いいんですか?わたしはレスター殿下から社交界を追放されてますが…」
懸念点を口にすれば、アスター王子はフッと笑う。
「あれは、レスターが勝手に言い出しただけだ。誰も了承してない。それに、もしもそうなってもオレがどうにかするから安心しろ」
彼からは、ずいぶん頼もしいお言葉をいただけました。