捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
「んぐ……おおおっ!」
起きない上司と布団や毛布の引っ張りあいなんて、もはや毎朝のルーティンだ。全身全霊の力で精一杯引き剥がそうとしても、本体が布地とくっついたみたいにびくともしない。
布団オバケと格闘すること5分あまり……。
今日は、なんとか頭を先に出させる事に成功した。
「はい!さっさと顔を洗って着替えてください。また朝食を取りそこねますよ?」
「…………」
上司の眉間に深いシワが刻まれ、睨まれてるけれども。ちっとも怖くありませんよーだ。
最初こそビクビクしたけれども、今じゃすっかり慣れてしまった。アスター王子のこの寝起きの悪さには、誰も彼も手を焼いていたみたいだけど。
「はい、はい!いつまでも拗ねてないで。朝食抜きがご希望なら、ぼくは別に構いませんけど」
洗顔用の洗面桶を両手で持ち差し出せば、布団にくるまったまま、渋々両手を出して水を掬い顔を洗う……亀ですか。
これが、宮廷の女性をことごとく虜にする第3王子であり、近衛騎士団に所属するアスター殿下なんだよね。
第1王子アルベルト殿下はソフィア公爵令嬢と、第2王子レスター殿下はアニタ準男爵令嬢と婚約されてるけれども。アスター王子は不思議と女性の影があまりない様子。
レスター殿下と1日遅れた産まれの20歳で、第2妃がご生母。王位継承争いから身を引くため、自ら武官を志願した……らしい。