捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
げ、と小さく声が出かけたのは仕方ないと思う。
「やぁ、ミリュエール!今夜の君は夜空のように美しい……ボクのために、美しく装ってきたのだね!」
寝ぼけたうわ言をほざくのは、レスター王子。
以前にあれだけきっぱりと好いてないと何度も伝えたのに……記憶力大丈夫かしら?本気で心配には……ならないけどね。
レスター王子の寝言を右から左へ聞き流し、チラッと傍らのアニタ嬢に目を向けると。やっぱり彼女はレスター王子のことはどうでも良さげだ。
(ソフィア様、効果てきめんですよ!)
雑音と化したレスター王子の言葉を、耳をほじりながら聞き流す。クライマックスらしい場所で、レスター王子は両手を胸に当てて勝手に盛り上がる。
「おお!なんと罪深きボク……ミリュエール、ボクの気を引くためにわざとアスターなんぞと仲良く見せつけ、焼きもちを焼かせようとしたのだね!ああ、そんなにボクを思ってくれるなんて……仕方ない、第3妃にしてあげよう!」
……おい、待て。
以前は第2妃じゃなかったの?
いつの間に女を増やしてんだか。まぁ、心底どうでもいいですけどね。
それより、わたしが許せなかったのが……。
「レスター殿下」
わたしがやっと口を開いたからか、レスター王子はぱっと顔を輝かせる。
「なんだい、愛しいハニー。第3妃になりたいんだね?そうか、そうか」
黙れ、ボケ。ついそんな乱暴な言葉を出しそうになったのは仕方ないと思う。