捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?

なんとか身支度を済ませたアスター王子とともに、食堂に向かう。
食堂とはいっても、なにせ王宮。
シャンデリアや暖炉まである豪奢な造りのダイニングルームだ。無論、上司である騎士とまだ騎士でない見習いが同じ食卓に就けるわけがない。食卓には専用の給仕までいるから、わたしのする役と言えば……。

手を洗う水を張った器を持ち、アスター王子の横で突っ立っていること。

(うう……お腹すいたあ)

ふわふわな白いパン、うずらの香草焼き、茹で汁ごとのソーセージとポーチドエッグ……空腹状態の食べ盛りには目に毒なメニューだ。

「ミリィ」
「は、はい!」

ぼーっとしていたせいか、ついつい返事が遅れて慌てて姿勢を正す。

「こんな最中でも、気を抜くな。水盆がわずかでも波打つことがないように、同じ姿勢を維持する必要性を学べ。ことに、おまえは騎乗時の体幹がやや不安定だ。あれではいざという時に落馬の危険が高まる。体の真ん中にまっすぐと芯があることを常に意識しておけ」
「はい!」

(やっぱり……アスター王子には見抜かれてたか)

以前、お父様にも同じ指摘をされたことがある。騎乗時の姿勢がわずかに不安定だ、と。
アクアは癖をわかってくれてるから乗りやすいけど、他の馬に乗る時が問題だ。

(もっと背筋を鍛えないと……あ、内股も)

従騎士になるまでには、なるべく完璧な騎乗を目指したい。騎士にとって馬は大切なパートナーだから。信頼される技術を身に着けなくては。



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