捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
「いいか、この人形は回転したあとに重りがこちらに向かってくる。つまり、ランス(槍)で突いたあと、素早く駆け抜けねば重りが自分自身を直撃するからな。ケガをしたくなければ、スピードとタイミングに注意をしろ」
「は、はい!」
夜。夕食と仕事が終わったあと、アスター王子はわたしを指導してくださる。騎士の仕事でクタクタのはずなのに、日が暮れた鍛錬場でランタンをいくつも灯し、鍛錬に付き合ってくださるんだ。
今日は、馬上槍試合の模擬練習。
先を丸めたランスと盾を持ち、簡易的な布製の鎧のクロスアーマーを身に着けアクアに騎乗した。
まだ対人の模擬練習はできないから、木の棒を組み合わせ鎧と兜と盾を身に着けさせた人形で練習をする。
この人形の芯は回転するようになっていて、盾を突けばクルッと動く。その際もう片手側にある重しがついた紐が一緒に回転するから、アスター王子の言うとおりに素早く通り抜けないと重しが襲ってくるんだ。
「よし、始め!」
「はいっ!アクア、いこう」
「ヒヒン」
アクアの横腹を軽く蹴り、人形に向けて徐々にスピードアップする。
「利き手じゃない左手だからこそ、手綱だけで誘導するな。それでは馬が戸惑うぞ!駈歩までの時間が遅い!重心を安定させろ!!盾は体を護るようにまっすぐに構えろ」
「はい!」
ランスを右手で構え、左手に装着した盾をまっすぐにと意識しながら手綱を持ち直す。
今までこんな模擬練習をしたことがないから、正直言うと難しかった。