捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
人形まで、あと2m。
ランスを突きだすべく、ヴァン・プレート(大つば)の下にある右手に一層力が籠もる。
集中、集中…!
(よし、今だ!)
人形の盾目指して、ランスの突きを繰り出す。
「はぁッ!」
よく目指した……はずだった、けど。実際、ランスの先はかすりもしなかった。
「遅い!もっとタイミングを速くだ。次!」
「はい!」
アクアをターンさせ、もう一度チャレンジ。人形相手に苦戦しているようじゃ、本物の試合で人間相手にはとても勝てない!
「はっ!」
「やっ!」
「とおっ!!」
疲れなんて、感じる暇はなかった。アスター王子も付き合ってくださっているんだ。1秒も無駄にはできない!
「あっ!」
でも、やっぱり疲れは確実に足に来ていて……。
突然バランスがおかしくなって体が揺れたかと思うと、ぐらりと後ろに体が傾く。
(落ちる……!)
咄嗟に落馬方向の鐙(あぶみ)から足を抜き、受け身を取る。全身に鈍い衝撃を受けた後、すぐには起き上がれなかった。
すぐにアスター王子であろう足音が聞こえ、背中にをぬくもりを感じた。
「ミリィ、大丈夫か?」
「あ……はい。大丈夫です」
心配かけてはいけない、とすぐ立ち上がろうとした。けれども、左肩と右足に激痛が走る。
「……!」
でも、と歯を食いしばった。少しのケガくらい、騎士になるなら耐えなきゃ。
「へ、平気ですから!」
平気なふりをしながら、アクアに乗ろうとした。