捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
「ま、軽い捻挫と打撲でしょうな。1週間ばかり運動は控えるのじゃな」
医務室で近衛騎士団付きの御典医にそう診断され、落ち込むしかなかった。
「……ぼくのバカ……すみません、アスター殿下」
「いい。おまえは治療に専念しろ」
「でも、ぼくが起こさないとアスター殿下は遅刻するじゃないですか」
「…………」
当たり前の答えを返せば、アスター王子がおし黙る。……遅刻常習犯の自覚はあるんですね。
「ふぉっ、ふぉっ。アスター殿下の寝起きの悪さは有名だからのう。今までそのおかげで何人の小姓が辞めたか……ミリュエールどの、1か月持ったのは新記録じゃよ」
白髪白ひげの御典医であるジョワンさんにそう教えられ、「え、そうなんですか?」と思わず答えてしまった。
「そうじゃ。アスター殿下の厳しい訓練についていたのも、ミリュエールどのが初めてじゃよ」
「そう……ですか?
アスター殿下の訓練メニューは確かに過酷ですけど、頑張ればこなせないこともないです。それに、ぼくの弱点をカバーし長所をしっかり伸ばす、よく考えられたメニュー。日々成長を実感できてますよ」
とわたしが答えたら、なぜかアスター王子はプイッと顔をそむけてしまう。
それを見て、ジョワンさんは温かい目を向けてきた。
「ふおっ、ふおっ。素直になればよろしいものを……難儀な性格ですの」