捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?

微妙な空気が流れるなか、ドアがノックされてジョワンさんが応じる。

「どなたかな?」
「エストアール卿がお越しになったので、入室許可を」
「ほう……」

(お父様が!?)

とっくに就寝してもおかしくない時間帯。そんな遅い時間に、わざわざお父様がいらっしゃるなんて。それに、あの取次ぎの声は。

「アスター殿下、ミリュエールどの、構いませんかな?」
「はい……」
「はい」

ジョワンさんに確認されても、断る選択肢ははじめからない。アスター王子とともに了承すると、ジョワンさんが「どうぞ」と答えてすぐ、ドアが開く。
予想どおりにドアを開けたのはトムソンで、続いてお父様の姿が見える。こんな時間なのに鎧の下に着るチェンメイル姿のお父様は、まっすぐわたしのもとにやって来られた。

「落馬したと聞いたが、平気かね?」
「はい、足の捻挫と肩の打撲ですから大丈夫です。ご心配をおかけして申し訳ありません」
「そうか……」

一見あまり表情に変化はないように見えるけど、娘だからわかる。お父様はほっとしてらっしゃるんだ。
こうして親にまでご心配をかけてしまう自分が不甲斐なくて、悔しい。

「エストアール卿」

アスター王子がお父様の名を呼ぶと、誰もが驚く行動を取られた。




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