捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
(今日はバフィーク語の授業か……発音が苦手なんだよなあ)
バフィーク語はほとんど世界的な公用語だから、騎士になるからには必須と言える。なにせ諸外国の要人を警護する機会もあるんだから、何かあった非常時にいちいち通訳を挟むわけにはいかない。
『お〜い、ミリィ!こっちこっち』
『フランクス!助かった』
講義室では先にフランクスが席を取ってくれて、手を振って知らせてくれる。ありがたくその席に座らせてもらった。
今日は入室から退室まで、すべてバフィーク語を使わねばならない。やっぱり実践が一番ということで。
『フランクス、バフィーク語うまくなったぬ』
『サンキュー…けど、ミリィ。“ぬ”って……ぷぶっ』
(……悪かったわね!“えぬ”の発音は苦手なのよ)
お腹を押さえて忍び笑いする悪友はほかっておき、テキストを捲る。
『おい』
急に話しかけられて顔を上げると、前の席にはトムソンがいて“うわー”と思った。
『なに?』
わたしが答えても、いつもは睨みつけてくるのに……今日はなぜか、ほんのりと顔が赤い。
『お、お、おまえ……アスター王子と……その、同じ部屋なのか?』
『なんで、そんなこと訊くの?』
意味がわからなくて質問に質問で返せば、トムソンの顔はさらに赤くなった。