捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
(わ、気持ちいい……)
水のなかに入ってしまえば、冷たさが逆に心地よくなった。
5月の快晴のおかげで太陽の熱が体を温め、湖の水がその熱を和らげてくれる。
泳ぎは得意だ。子どもの頃から近くの川で散々泳いできたから。
犬かきの要領で湖畔から少しだけ進む。確かに、アスター王子の提案通りに痛めた足にはいい。
全身の筋肉を使うから、ケガをしたわたしにはピッタリだ。
(懐かしいな……お父様とお母様との野遊びに来た風景に似てる)
アスター王子が好きに泳いでるから、わたしも、と自由に泳いでみる。お腹いっぱいに空気を吸い、素潜りをすると。素晴らしい景色が広がっていて…。
きらきらと揺らめく水面の光が白い砂を照らし、倒木や水草に潜む魚たちを映す。
大きな淡水魚がいたから、捕まえようと追いかける。
(むかし、お父様に褒められたっけ)
魚はなかなかスピードが速くて、触れることもできない。あと少しのところで、すかさず逃げられる。
意地になって追いかけていくと、コポコポと泡だつ音が耳に響く。
(いけない……水が湧き出す音だ。流れが変わる!)
そろそろ息継ぎしないと持たない。水面を目指して浮上し、水上に頭を出した。
「ぷはっ……あれ?」
目を開いて辺りの景色を見回すと、さっきまでいた湖畔とずいぶん雰囲気が違った。