捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?

湖底はずいぶん浅くて幅も狭いし、古い木々が湖面ぎりぎりまで枝を伸ばしてる。こんもりと盛り上がった小さな丘には、ひときわ立派な巨木がどっしりと根を伸ばしてたけど。その木に今まで見たことがない、透明な花が咲いている。まるで、ガラスのベルのよう。


シャラシャラ、と風が吹くたびに涼しげな音が耳に届く。気のせいか、光の粒まで放たれているように見えた。

(あ……っ!)

リーン、とひときわベルの音が響いた瞬間。巨木の木漏れ日が形を成した……ように見えた。

でも、違う。

本当は、違ったんだ。

真っ白な馬体が見えた瞬間、アクアだと思って呼ぼうとした。でも、不思議なことに声が出せない。いくら発声しようとしても、ひゅ~という音しか出せなかったんだ。

そして、微かな光に包まれた真っ白な馬体の額には長い角を見つけ、馬に見えた蹄が鹿のもので……さらに、水面に脚を着けて。沈まずにそのまま湖面を歩いていた生き物……いや、幻獣は。

(……ユニコーン……だ……)

淡く白く輝く姿を呆然と見送りながら、やっぱり現実にいたんだ!とゆっくりと興奮する気持ちが湧き上がってきた。

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