捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
ルール州にあるエストアール男爵家の本邸は無骨な石造りで、華やかさがまったくない。もとは要塞の一部を流用したからだけど、武人を目指すわたしにはむしろ好ましい。
婚約破棄された翌日、わざわざ公休を頂いたお父様が王都から帰って来られた。ひとり娘のわたしを心配してくださったんだろう。
食後、家族の寛ぎスペースである談話室で、軽装のお父様は心配そうにおっしゃる。
「ミリィ、大丈夫か?」
「ご心配ありがとうございます、お父様。むしろわたしのためにお父様の評判に傷がつかないか心配です」
「何を言うか。かわいい娘のためなら、悪評の一つや二つくらい構わないさ」
「そうよ。ミリィ、あなたは何一つ悪くないわ。堂々と胸を張って生きなさい」
お父様に続けてお母様からまでそう言っていただけて幸せではあるけれども。事実、レスター王子の追放宣言で、エストアール家は貴族として終わったようなもの。
王家を頂点とする社交界は、貴族として欠かせない生活の一部。政治も関わる重要視される場だ。そこへ足を踏み入れられないとなれば、爵位など形骸化したほとんど形だけの貴族となってしまう。
追放されたのはわたしだけではあるけれども、そんな瑕疵のある令嬢を持つお父様もお母様も、これから他家に招かれることはほとんど無くなるだろう。つまり、爪弾きにされたも同然。