捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
でも、まぁ。他のカツレ草は独り占めせずに医務室にも届けるならよかった。せっかくの薬はやっぱりたくさんの人に使ってもらいたいから。
(もうほとんど痛みがない……すごいな、カツレ草って)
「アスター殿下、湿布をありがとうございます。おかげで痛みがなくなりました」
「いや……ついで、だからな」
またアスター王子はぶっきらぼうに答える……なんだか可愛くて、ついつい顔が緩んでしまう。
「なに、へらへら笑ってるんだ」
「いえ、アップルティーも梨もチーズも美味しかったな〜と思いまして。普通の商店にはないのに、よく手に入りましたね?」
「た、たまたまだ!安売りしてたんだ」
「たまたまですか。すごい偶然ですね。ぼくの好物ばかりって」
「……」
ふいっとそっぽを向いてしまうから、ちょっとからかい過ぎたかな?と反省。
「すみません、怒っちゃいました?」
「……別に、怒ってない」
そんなほのぼのしたやり取りをしていると……。
近くにいたアクアの耳がピクッと動き、音が聞こえただろう方向へ顔を上げた。
(……なんだろう?)
ゾワッ、と首すじが粟立った。本能的な危機感。
「伏せろ!」
アスター王子がわたしを近くの灌木へと押し込むと、そのまま2人でしゃがみ込む。アクアは咄嗟に違う木の陰に隠れたようだった。