捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
盛装した貴人が乗った舟が2隻湖に浮かび、華やかな雰囲気で舟遊びを楽しんでいるように見える。ドレスを着てボンネットを被った貴族女性の姿まであった。
(……あれ?でも、おかしい)
貴婦人ならば、日除けのパラソルくらいは差していそうなもの。夏に入った5月ならば日差しが強いから、ボンネットだけなんてありえない。白い肌が美貌の第一条件なんだから。
それに、誰も笑ってないし楽しげな雰囲気じゃない。まるでお葬式のように静かだ。
2隻の舟は漕手の巧みなオールさばきで、だんだんと奥の方へと向かっていく。
ズキッ、と頭が痛む。
(あちらは……あっちの方は)
わたしが川魚を追いかけていき、見つけた巨木があった方角。なんとなく、そう感じた。
「アスター王子……あの人たち、なんか怪しいです」
「同感だ。あちらはカツレ草が生えてる方。もしかしたら密猟者かもしれない……後を追うぞ」
「はい!」
再びアクアに2人で跨がる。普通の馬なら2人乗りは常歩(なみあし)から速歩(はやあし)が限界だろうけれども、アクアは3人乗せても全速力で駆けられる化け物並みの頑丈さだ。だから、遠慮なく騎乗できる。
アスター王子が横腹を軽く蹴ると、アクアは心得たように舟の後を追い始める。なるべく目立たないように、かつ素早く最短距離で移動してくれている。
やがて、小高い丘が見えてきた。