捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
「……ここです、アスター王子。ぼくがユニコーンを見た場所です」
シャラシャラ、と澄んだ涼しげな音が響き渡る。
巨木にはやっぱりガラスのベルのような透明の花が咲き、風が吹く度に美しい音を奏でる。
木々は湖の淵ギリギリまで生えている上に、背が高い雑草が繁茂していて。緑深いこの場所は確かに人には見つかりにくい。
それでもアクアはギリギリ通れるけもの道を使い、巧みに後を追跡して遂にここまで連れてきてくれた。
アスター王子はきょろきょろと辺りを見渡し、ため息をつく。
「ここか……まさか、ユニコーンがいるとは知らなかった。オレはいつも湖底のカツレ草しか採取しないからな。じっくり見たこともない」
「もしかして……ユニコーンがいるから、カツレ草も育つのかもしれませんね。水を浄化すると言いますし」
「それもあるかもしれんな……待て」
そのうちに貴婦人が舟から下りて、丘のそばの倒木に腰掛ける。淑女ならなかなかできない行動だから、妙に違和感がある。そして……他の人たちは舟から降りると、それぞれ灌木や木々の後ろや草むらに姿を隠す。
どくん、と心臓が嫌な音を立てて首すじがまた粟立った。
そして……
ユニコーンが、光の中から姿を現した。