捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
近衛騎士の施設に戻る最中、アスター王子はずっと押し黙ったままだった。
こういう時はそっとしておくに限る。
アクアを厩舎に戻してそのまま世話しようとしたら、アスター王子はそれより来い、と言われてしまったから渋々従う。
宿舎の部屋に戻った瞬間、そうだと思い出した。アスター王子の部屋が足の踏み場もないほど散らかってたことに。
「……アスター殿下……片付けられるまで、ごはん抜きですからね」
わざとため息をつきながら笑顔で言うと、アスター王子は引きつった顔で「そうだな」とおっしゃいましたがね。もともと、散らかしたのはあなたですからね?
「王子!なんで同じ本が2冊あるんですか!あ〜!また、シャツがしわくちゃ…しかも、カビが生えてるじゃないですか!あ、またシャツ。もう、脱いだら洗濯かごに入れてくださいってば!」
わたしがぶつぶつ文句をつけながら片付けているのに……アスター王子はすごく嬉しそうに見える。なんなんだろう?
「また、カビが生えたパン!ねずみが出ますって言ってますよね!?」
「腹が減ったら食うつもりだった」
「なら、きちんと食べてくださいよ!」
「すまん、すまん。気をつける」
全然、反省の色が見られない。わたしに叱られてるのに、ニコニコしてる……変態だ。
「……おい、なんだその顔は」
「見ないでください。怒られて喜ぶ変態さんになりたくありません」
「誰が変態だ!」