捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?

「到着いたしました」  

ドアが開いて恭しく頭を下げられ、居心地が悪い。

「……アスター殿下、先に下りてください」

やむなくわたしが声を掛けると、アスター王子はなんだか嬉しそうだ。

「わかった」

喜々としてアスター王子が先に下りた理由を……すぐさま理解した。

「お嬢様。どうぞ、お手を」
なんて、アスター王子が恭しく手を差し出してくるものだから。

「…………」

わたしが白い目で見ても、へこたれてない。

ぶぎゅ、と見事な音が聞こえた。

「ぐふ…」
「あ〜ら、ごめんあそばせ。慣れない服で足が滑りましたわ」 

思いっきり体重をかけて、アスター王子の頬にひじ鉄を食らわせた。ついでにぐりぐりもしておく。

「ふ、さすがにミリィだな。容赦がない重いひじ鉄だった……成長を感じる」

ひじ鉄食らわせられ、鼻血出しながらうっとりつぶやく……この変態を、お願いだから誰か黙らせて欲しい。

そんなやり取りを咎めるでなしに、むしろ生暖かい目で見守る使用人さんたちも大概だけど。
まぁ、主があんな変態だから慣れっこなんでしょうけどね。

そんなこんなで、王族なのに珍道中を繰り広げたアスター王子がわたしを連れてきたのは、王都でも屈指の仕立て屋だった。




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