捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?

ゴホン、とアスター王子は咳ばらいをした。

「……と、とにかく。頼む」
「はい」

屋敷のホールのような広い場所から、なぜか女性数人がかりで強制的に移動させられる。
小さな部屋に移ると、あれよあれよという間にワンピースを脱がされて体の採寸が始まる。

一応、男爵令嬢だからわかる。これは、ドレスを作るための採寸だ。

「ん〜まだ膨らみが足りないわね……鍛えてるからシルエットはいいけど……」

全身黒尽くめのデザイナーらしき女性がわたしの体を眺めつつ、カツカツと何やら板にスケッチしてる。紙は高価なものだから、おいそれと使えない。

「あの……これは、いったいなんのためのドレスなんですか?わたしは必要ないんですけど」
「それは、私の口から言えないわね。アスター殿下に直接訊いたら?」
「はぁ……」

(なんか、面倒くさいな……ちゃんと答えてくれなさそうだし)

そもそも、ドレスは好きじゃない。動きにくいし、走ることも木登りもできやしない。
つくづく、貴族令嬢なんて自分には合わないな。

「生地は、これなんかどう?これから流行るわよ。薄い黄色のシフォン生地にビーズ。こちらは貴重な東洋の絹よ。七色に光るわ。これはサテンよ。見事な光沢でしょう?」

たぶん、他の令嬢ならば目を輝かせるんだろうけど……わたしには退屈過ぎて、見えない場所で小さいあくびをした。


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