捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
レスター王子について初めてアスター王子の口から語られたから、思わず怒りを忘れて聞き入った。
「レスターはバカだ。ミリィの本当の価値や魅力も知らず、勝手なイメージを作り上げて……それに合わなくなれば、捨てるとは」
「アスター殿下……」
なんだかアスター王子が近づいて来てる。でも、なぜか不愉快じゃない。さっきまで怒ってたのに……なんでだろう?
彼の、淡い水色の瞳がじっとわたしを見つめる。
心臓が、とくんと小さな音をたてた。
「オレなら、絶対そんなことをしない」
アスター王子の両手がわたしの肩に置かれ、ゆっくりと体が近づく。その手が背中に回され優しく抱かれた、と頭が理解した瞬間。頭に血が昇りそうになった。
「絶対、離さない……」
耳元でそんなふうに囁かれ、体が固まった。
自分に何が起きてるのかわからなくて、キャパシティオーバーだよ。
シャラ、と首元に冷たい感触があってすぐ、足音が響いてきて。ハッ、と我に返ったわたしは、思わずアスター王子を突き飛ばした。
「あら、どうしましたか?アスター王子は?」
「どうやら眠くて仕方ないようですの。オホホ」
頭を何処かにぶつけたのか、見事にのびてるアスター王子は放っておこう。うん、それがいい。
「あら、早速身につけてくださったんですのね?」
「え?」
デザイナーさんの視線の先は、アスター王子がわたしに掛けたペンダントの先。
「そのカメオのメダリオンは、アスター殿下の特注ですのよ。ミリュエール様もぜひとも大切に、そしてお返しもされてくださいね。アスター殿下の並々ならぬ御心に報いるためにも」