捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
「いいか。お互い反対方向から馬を駆りながらすれ違い様に落馬させれば勝ちの馬上試合でなく、今回は相手の胸当ての印に木剣を当てた方が勝ちだ」
「わかってる。お父様が勝ったら、わたしは令嬢のまま。わたしが勝ったら、騎士の小姓に推薦してくださるのですよね?」
お父様の説明に確認すれば、お父様もうむ、と頷かれた。
「騎士に二言はない。最上級の騎士に紹介してやろう」
(お父様が認めた騎士……きっと素晴らしい人に違いないわ。よ〜し、きっと勝って紹介していただくわ!)
「頑張ろうね、アクア」
「ブルルッ」
アクアは誕生の時から立ち会い、ともに育ってきた白毛馬。王宮で唯一心を許せた存在。
貴族令嬢として生きねばならないなら、アクアともめったに会えなくなる。
「絶対、負けない!行こう!!」
笛の音が、試合の始まりを告げた。
「うわっ!」
最初のすれ違いですごいスピードで木剣がかすり、ぎりぎりのタイミングで避けて間一髪。開始早々に食らったお父様の一撃は、わたしの髪の毛の束を裁断するほど強烈で。さすがに現役の騎士、と気を引き締め直す。
アクアをターンさせ、速歩(はやあし)から徐々にスピードを上げる。数メートル先にお父様の姿。
馬はまっすぐに進めないといけない。すれ違う一瞬が勝負。
左手の手綱でアクアを駆りながら、木剣を持つ右手の手のひらが緊張で汗ばんだ。