捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
「はじめまして、ソニア様。わたしはミリュエール・フォン・エストアールです。御子様のアスター殿下の小姓を務めさせていただいてます」
いくら相手が眠っていてもおざなりな扱いはしたくなくて、わたしはきちんと自己紹介をしておいた。
「アスター殿下はすぐ暑いって裸になりますし、寝起きが悪くて遅刻しますし、部屋は散らかすし、怒られたり殴られて喜ぶ変態さんですけど」
わたしがそう伝えれば、ピッツァさんはお腹を抱えて忍び笑いしてる。侍女たちも必死に隠そうとしてたけど、口元がぴくぴくしてる。
そっとソニア妃の手を握ってみた。冷たい……。
アスター王子はいつもこんな御母上に相対してるんだ、と思うと胸が締めつけられた。
「でも、誰よりも立派な騎士です。腕も素晴らしいですが、わたしが尊敬するのは彼の志(こころざし)です。人でなくともそのいのちを大切にする……簡単なようで難しいことを、アスター殿下は実践されてます。だから、わたしは彼を信じられます」
あなたの息子さんは、とても立派な騎士になりましたよ。それを伝えたくて、自分なりに一生懸命言葉にしてみた。
すべて伝えたいのに、言葉にできないもどかしい気持ち。歯がゆいけど、それでも伝えられて嬉しい。
「アスター殿下を産んでくださって、ありがとうございます」
わたしが一番伝えたい言葉を口にすると……
突然、澄んだ音が聴こえてきた。