捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?

「……ミリィ?」

アスター王子の声が聞こえて振り向けば、彼は花束を抱えて困惑したような顔をしていた。

「よ、アスター!ミリィが母ちゃんに会いたいって言ってたから、連れてきてやったぜ」

ピッツァさんが軽いノリで陽気に手を振ってくれて、助かった。

「すみません、アスター殿下。勝手にお会いして」
「いや……それは構わない」

そう言ってくださったのはありがたいけど、やっぱりなんだか気まずい雰囲気だ。

「あ、そうそう!アスター、見てみろよ」 
「いてっ!」

ピッツァさんがアスター王子の顔を無理やり横に向かせる……今、ゴキッと不自然な音がしませんでしたか?

「ミリィがソニアの手を握って話しかけたら、ソニアが涙を流したんだよ!」

ピッツァさんの言葉に、アスター王子は目を見開く。やっぱり半信半疑だったようで、ベッドのソニア妃に歩み寄ると……その場でしゃがみ込む。

まじまじと御母上様の顔を眺めたアスター王子は、唇を震わせ両手で顔を覆った。

きっと、色々な感情が渦巻いてるんだろう。15年、5歳から毎日、毎日。なんの変化もない御母上様を見てきて……ようやく訪れた微かな変化。

どれほど待ちわびてきたか。わたしにはきっと理解しきれない。でも、わたしは嬉しい。アスター王子の喜びが伝わってきたから。

彼が喜んでくれた、それだから嬉しかった。


< 95 / 181 >

この作品をシェア

pagetop