捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
ハッ、と突然アスター王子が顔を上げた。
すると、再びあの音が響く。
しゃらん、しゃらん、しゃらん。
「また、だ……あのベルの音……」
わたしが呟けば、アスター王子が驚いたようにこちらを見た。
「ミリィも、聞こえたのか?」
「あ、はい。あの木のベルの音ですよね」
ユニコーン密猟事件は機密扱いだから、部外者のいるここでは話せない。でもやっぱり、ピッツァさんたちには全然聞こえなかったようだ。
「なにさなにさ!いったい何が聞こえるってんだい!?」
「ピッツァさん、あの丘の木ですよ」
わたしが小声で教えると、彼女は腕を組んだ。
「おかしいね。アタシもあれに関係したのに……もしかしたら、アスターとミリィにだけ関わる何かがあるのかもしれないね」
「なにか…?なんだろう」
それが何かは、今のところさっぱりわからない。
ユニコーン密猟事件を振り返れば、ピッツァさんとわたしたちの違い……彼女は潜入捜査していて、わたしたちはたまたま訪れた。そして、彼女は湖に潜らずわたしたちは湖で泳いでた……くらいだ。
ヒヒヒーン……
ユニコーンの嘶きが、微かに聞こえた気がした。