捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
「はっ!やあっ!!」
「左が遅い!もっと間合いを意識しろ!」
夜、木がぶつかり合う乾いた音が鍛錬場に響く。
最近、アスター王子は木剣を使った鍛錬をしてくださる。なんだか実戦を意識したメニューが増えてきた。
(わたしの利点。スピード……軽さを意識した攻撃!)
自分ではスピードに乗せた攻撃をしているつもりでも、アスター王子には瞬時に見切られかわされてしまう。一合木剣で斬り合う真似事をしただけで、アスター王子の剣の鋭さと重さがひしひし伝わってくる。相当手加減されているのに、まったく敵わない。
カン!とわたしの木剣が弾き飛ばされ、そのままアスター王子の木剣がコン!とわたしの額を叩く。
「まだまだ、クセが消せてない。相手に攻撃のパターンを読み切られたら終わりだぞ」
「はい……ありがとうございました!」
(悔しいな……まだ全然剣の型になってない)
鍛錬のあと、アスター王子に水筒の水をカップに注いで渡す。もう少し自主練しようかと思いながら、ちびちびと水を飲んでいると、アスター王子が奇妙なことを言い出した。
「ミリィ、目をつぶれ」
「……いたずらでもする気ですか?」
「違う!いいからつぶれ……口は少し開けろ」
渋々まぶたを閉じると、唇に少し柔らかい感触。それから固いものがなかに入ってきて、甘さが口いっぱいに広がる。
「……これは?」
「おまえが、母上へのお見舞いに持ってきてくれただろう?きっと、一緒に分け合う方が母上も喜ぶ」
そう言ったアスター王子は、指先でつまんだ水色のこんぺいとうを自分の口に放り込む。
アスター王子がくださった優しい甘さがゆっくりと溶けて、体中にあたたかさが染み渡るような。そんな気がした。