捨てられた男爵令嬢は騎士を目指す〜小姓になったら王子殿下がやたらと甘いのですが?
アスター王子とともに、鍛錬場の地面に寝転ぶ。
数多の剣士や騎士の汗と努力が染み込んだ土は、踏み均されとても固い。
皆、どれほどの努力をしてきたんだろう。
見習いになってたかが3ヶ月のわたしが、敵わなくて当たり前だ。
アスター王子だとて、見習いから今までの15年間毎日たゆまぬ努力を続けてきた。その差が容易に埋まるはずがない。
(でも…だからといって諦めない!必ずアスター王子に勝てる剣士に……騎士になってみせる)
女だから、年下だから。と言い訳をしたくない。それは甘えで卑怯な理由だ。戦いでは誰も気にかけてなどくれない。最終的には己の力がすべてだ。
それでも見上げれば、夜空には満天の星。
降ってきそうなほどきらきら輝く星々を眺めていると、居眠りしていたはずのアスター王子から呼ばれた。
「ミリィ」
「はい」
それから、しばらく何も言わない。さぁっ……と、風が吹いて汗をかいた肌を冷やす。
「……おまえを、必ず騎士にしてやる」
「アスター殿下……?」
「ミリィ……オレに、ついてこい」
ざざぁ、と強い風が吹いた。
寝転んでいるから、彼がどんな顔をしているのか見えない。でも、声音はとても真剣なもの。
(大丈夫……アスター王子は信じられる)
「はい……アスター王子。わたしはあなたに着いていきたい…よろしくお願いします」
そう答えると、そっと右手に触れられて。指先から指、そして手のひらへ。気がつくと、アスター王子の大きな手がわたしの手を包んでいた。
硬くて、豆だらけで。ゴツゴツした……でも、あたたかい手をわたしは……好きだ、と感じた。