キミの次に愛してる【BL】
十二
裕文さんのお見合い当日は、2人早起きして、平日の朝のようにバタバタと準備をした。
「ハンカチ持ちましたか?」
尋ねる僕に、「持ったよー」と緊張感のない声が洗面所から返ってくる。
――お見合いってもう少し、緊張感のあるものじゃないだろうか……。
普段通りの裕文さんに、僕の方がドキドキしてくる。
もちろん、お見合いなんてしてほしくなかったし、断ってほしいけれど。
相手の人に裕文さんが「だらしない人」と思われるのは、もっと嫌だった。
「今日は晩御飯もいらないから、ゆっくり友達と遊んでおいでね」
少しムッ…としたけれど、「ありがとうございます」と全然思っていないのに口先だけでお礼を言う。
そもそも、今日友達と遊ぶっていうのさえ、嘘なのに……。
今更言えないから、僕までもが外出の用意をするハメになっていた。
――自業自得と言えば、自業自得だけどさ。
「あ、浩次君」
洗面所の前を通れば、呼び止められる。
「今日の友達って、女の子も来るの?」
――意図が、解らない。
「はぁ、まあ……そうですね」
来るわけがない。
だからテキトーに、裕文さんの想像に便乗した。
「……へぇ」
髪の毛をセットしていた彼は手を止めて、僕の方をじっと見る。
そうしてチョイチョイと僕を手招きした。
「何ですか?」
寄れば、ジェルタイプのワックスを手に取って、僕の髪に指を差し入れる。
手の指が、僕の髪を滑っていく感触が、気持ちいい。
そして裕文さんのシャツが、すぐ目の前にある事にドキドキした。
「よし出来た」
最後に僕の前髪を抓んでセットしていた指が離れて、裕文さんがすぐ間近で僕の顔を覗き込んでくる。
「うん、男前。きっと誰よりもモテるぞ」
魅力的に微笑む彼の方が、何倍も男前だと思う。
テレる僕に気付かずに、最後に僕の頭をひと撫でした彼の手が、離れていった。