キミの次に愛してる【BL】
二十一
「何してるの!? ダメダメ、寝てないと」
手洗いとうがいだけをしてきたらしい裕文さんが、背広姿のまま洗面器とタオルを持ってくる。
「姉さんには『ただいま』言ってきましたか?」
会社から帰ってきた彼がする、いつもの日課。
裕文さんにとっては、とても大切な、姉さんとの時間――。
僕のせいで、邪魔したくなかった。
「その間に、何か晩御飯、作りますから」
足に力を入れて立ち上がろうとする僕に、裕文さんが洗面器とタオルを僕の勉強机に置く。
そうして、僕の前に片膝を付いた。
「――浩次君、キミ。自分がどんな顔色してるか気付いてる? そして、どんな目をしているか……」
「えっ。……目?」
ゴホ、ゴホ、と咳き込んだ僕は、慌てて手で口を押さえて横を向く。
うつしたら大変だと思ってるのに、裕文さんは僕の前から退いてくれない。
「あの、うつしたらいけないんで……」
言った僕の声はかすれていたけれど、聞こえているはずだ。
それなのに、裕文さんは微動だにしない。僕のすぐ近くで、じっと僕を見つめていた。
その顔が、なんだか怒っているように見える。
なぜだか判らないまま見つめ返すと、ふぅっ、と小さく息を吐く。そうして、ゆっくりと立ち上がった。
「……泣いていたの?」