キミの次に愛してる【BL】
二十二
僕に背中を向けて、氷水でタオルを濡らす裕文さんに、「えっ」と声が洩れる。
「あ……」
先輩と別れてからずっと、涙が止まらなかった。
あの場所からも動けなくて。――きっとこの風邪も、長い時間あの場所に立ち竦んでいたからに違いなかった。
「あ……今日、卒業式で。お世話になった先輩が、卒業しちゃって」
「――それで、泣いたの? そんなに目が、腫れるくらい?」
その言い方から、彼があまり信じていないことが判る。
「でも、その先輩、遠くに行ってしまう人で。もう戻って来ないって言うんです……。僕、その言葉で姉さんのこと、思い出しちゃって」
絞ったタオルを持って再び前に屈んだ裕文さんを見る。そうして、その手に握られたタオルへと視線を落とした。
「もう2度と会えないんなら、死んだ姉さんと一緒だって、思ってしまって……。僕の前から消えて、2度と現れてくれないから」
「…………好きだったの? その、先輩のこと」
「……はい。とても」
言った僕に、裕文さんが小さく息を吐く。
僕に冷たいタオルを渡すと、立ち上がった。
「そんなに好きなら」
そう、裕文さんが言う。
冷たい物言いに感じたのは、僕の気のせいかもしれない。