キミの次に愛してる【BL】

二十三


「浩次君の方から連絡すればいい。引っ越す前に、会いに行けばいい。これで最後なんて嫌だと、想いを伝えればいい」

 背を向けて言った裕文さんに、「そうなんですけど」と僕は俯いた。

「僕の腕は、2本しかないから……」



 振り向いた裕文さんの視線を感じる。僕は濡れたタオルを膝に置いて、広げた自分の両手を見つめた。



「大切なものは、あっけなく僕の前から、居なくなってしまうから……。この両手で掴まえて、しっかり握っていないと……僕の前から、消えてしまうから」

 僕の両手には、姉さんの顔が浮かんでいた。

 僕の見ているものに気づいたらしい裕文さんが、再び僕の前に跪いてくれる。

「浩次君……」



 心配そうな声に、顔を、見られない。



「だけど。僕の、この、両手は――。……っ……あなたに……伸ばしたいんです。あなたを、失いたくないんです。あなた、だけは――……」



 だから、先輩には伸ばせなかった。

 先輩に、何も、言うことさえ出来なくて――。



 僕は――……。



 握った両手で、顔を覆う。



 何を言っているのか、自分でも解らない。

 全然頭が、まわってくれなくて――。



 上手く、言えない。






「浩次君……」



 心配そうな声がして、僕の腕を、裕文さんが握った。

< 23 / 26 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop