「仕事に行きたくない」と婚約者が言うので
「ヘラルダ様。どうやらあそこで騎士たちは訓練をしているようです」

 裏庭の奥にある騎士たちの訓練場。
 遠目でも一目でわかった。輪の中心にいるマンフレット。
 だけど、ヘラルダは目を疑い、耳を疑った。
 誰よりも動き、誰よりも声を出している。

(あれが、マンフレット様?)

 いじめられていないことだけは確認できた。だけど――。
 あそこにいるのはヘラルダが知っている、味噌っかすの第三王子ではない。
 あの姿はどこからどう見ても――。

 さわさわと風が吹けば、それにのって彼の声が耳元にまで届いてくるような気がした。

「戻りましょう、シーラ。マンフレット様のお好きなチーズタルトを作らないと」

「そうですね。きっとマンフレット様もお喜びなられますよ」

 それでもヘラルダの心の中は、灰色の霧がかかったような、もやもやした気分だった。


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